011 マジックミラー

 突如月夜とデートをすることになってしまった。

 しかも今、これからだという。

 迷子対応のお礼をするつもりがこんなことになるなんて。

 女の子と2人きりでデートなんてしたことないんですが……。


「何も今じゃなくたって、別の日でもいいんだよ」

「お兄ちゃんが太陽さんは女性と遊ぶ日、いつも用事作って逃げていると言っていました。なので絶対逃がしません」

「君達兄妹は僕を逃がしてくれないよね」


 神凪兄妹は僕をよく知っているようで。

 何度も言うが僕は同年代の女性が苦手な方である。何を話していいか分からない、上がってしまう、気を使ってしまうということもあり、できる限り僕は女性と一緒にいることを避けたい。

 嫌いではないし、複数人だと別に問題ないんだけど……2人きりってきつくない?

 月夜も話しやすい女の子ではあるけど……遊びに行くとかそういうのはまた別だと思う。


「太陽さんは私と一緒にいるのは嫌ですか?」

「分かったよ! 罪悪感を煽るようなお願いはやめてくれ」


 やった! と月夜は身を翻し表情を明るくさせる。そんな上目遣いでお願いされて応えない男はいるのだろうか。

 まったく小悪魔な女の子だ。女性慣れしてない僕には到底敵いそうもない。

 といってもすでに時間は15時を回っていた。集合時間が遅かったからね。今から出来ることなんてそう多くないと思うけど……。

 デートプランだったら僕が考えた方がいいのか?

 考えこんでいると月夜が通りを歩き始めた。


「時間も時間なので行けるところは1つです!」

「ど、どこに行くの?」

「科学館です!」



 ーーーーーーーーーーーー


「無料チケットを2枚もらっててよかったぁ」

「経済観念がしっかりしているねぇ」


 まさかデートで科学館に来るとは思っても見なかったよ。

 月夜もどこか安堵しているようにも見える。案外思いつきの話だったのかもしれない。

 科学館とは言えば子供向けで自然科学や理科について教育してくれる施設である。僕もちっちゃい頃親に連れられて行った記憶がある。こんなの子供向けかと思っていたけど。


「太陽さん! 光るモニュメントですよ。どうやって回路組んでるんだろう」

「係員さんに聞いてみようか。スイッチの切り替えを使ってると思うけど……」


 意外に楽しめた。

 物理や化学を現在進行形で勉強してることもあり、ためになることも多い。

 閉館まで2時間ほどしかなかったが僕も月夜も最大限楽しんだように思える。


「こんなことなら朝一で来たらよかったなぁ」

「じゃあ、また来ましょう。次の約束ですよ」


 さすが月夜、2手3手先を考えている。ここだったら気軽に行けるから、次も行こうという気になれるかな。

 でも次は人数を増やそう。2人きりはやっぱりきつい。月夜が了承してくれるかどうかはわからないけど。


「大きな鏡がありますね」

「本当だ。これだけ大きいと家に置くには邪魔かな」


 閉館まであと10分。トイレに行って帰ることににしよう。


「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる。待ってて」

「はーい」


 近くの男子トイレで用を足し、戻ろうとしたが……道が違う。

 曲がる所を間違えてしまったようだ。


「あれ、こんな部屋あったっけ」


 ずいぶん暗い部屋だな。えーとマジックミラー の展示室ね。

 確かマジックミラーって明るい所だと鏡になって、暗い所だと透過するって原理だっけ。なるほど、目の前に月夜がいるということはあの鏡はマジックミラーだったのか。

 こっちが暗い部屋なので月夜は僕の存在に気づいてない。鏡の前でこちらの方を向いて立つ、月夜におそるおそる近づいた。ここまで近づいて気づかれないということは僕を見えていないってことで間違いなさそうだ。


 至近距離で写真でも撮ってやろうかな。月夜は鏡を見て、髪や服の乱れを直している。

 栗色の髪につぶらな瞳、本当に見惚れてしまう。ずっとこうやって見続けたい。これが年間100人以上から告白されて、全て断っていることから【かぐや姫】なんて言葉で評される神凪月夜かみなぎつきよという少女。

 本当にきっかけが無ければ2人で遊びに行く以上に話すことすらなかっただろう。そんな少女にから僕は少なくとも親愛以上の気持ちを得ている。

 まー月夜の兄貴の親友ってのが理由が1番なんだろうけど……この兄の親友というポジションは誰にも奪われたくないな。


 例え月夜が誰と付き合おうとも、僕は……このポジションで祝福してあげたい。


「太陽さん、まだかな」


 あ、そろそろ戻らないと!

 いけないいけない。


「鏡の中のキミは誰に恋をしているのかな」


 月夜はこちらに向かって本当に至近距離じゃないと聞こえない声で呼びかけ始めた。僕の存在には気づいていない。きっと鏡に写る月夜に話しているのだろう。


「私は恋をしているよ」


 やばい、聞いてはいけない。そんな気がする。

 でも僕はその場から動けなくなっていた。月夜の心を知りたい気持ちが芽生えてしまった。


「あのね、その人はね……。初めて会った時から優しくて、他人想いの人だなって思ってた」


 月夜は思い出すように目を瞑り、両手を胸に当てる。


「あの事件を経て……私はその人が気になるようになった。一度気になるとずっと目で追っちゃうんだよね。1つ良いところを見つけると他にも良い所がたくさんあって……」


 月夜の頰に赤みが見られ、その瞳は極めて純粋で一点を見据えている。


「一緒にいるとすごく楽しいの。暖かいの。誰にでも優しいあの人の心を独り占めしたいと思ってしまう」


 ……。


「いつか大好きって言えるのかな。……私の好きな」


 ふんっ!


「っ!?」


 僕は手のひらでマジックミラーを叩きつけた。

 本当はこんなことやってはいけないんだけど、やらずにはいられなかった。その先を聞きたくなかった。

 月夜の心を知りたい気持ちより知ってはいけない気持ちが上回ってしまった。


「えっ……、何で……、誰かいるの? っ!」


 月夜は両手で口を押さえ、恥ずかしがり、急いでその場から立ち去った。

 僕はまだ立ち上がることができない。

 赤くなった表情筋がまったく戻らないからだ。

 月夜の好きな人は僕ではない。そう言い聞かせた。

 僕は自分勝手でまったく優しくない人間だ。月夜の想っている人間とは正反対なんだ。


「はぁ……」


 どんな顔して戻ればいいんだろう。


 この後、僕と月夜は互いに落ち着かない時を過ごす。月夜も僕に聞かれたとは思っていないのだろうけど困惑していた。

 きっとそう。

 月夜は僕が好きであってすきじゃない

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます