009 ゲームセンター

 

「太陽さんこっちです」


 図書館からの帰り道に僕と神凪月夜かみなぎつきよは商店街へ足を運ぶ。最近ほぼ毎日会っているような気がする。栗色の髪なびかせて、歩く人々を皆振り返らせてしまう妹ちゃんと一緒にいれることは僕としては楽しいし、嬉しいけど彼女はどうなんだろう。


 今商店街ではガラガラの抽選をやっているようだ。妹ちゃんが抽選券を手に入れたため今日の帰りに引きに来た。


「一番の外れはティッシュか。定番だね」

「でも1等は温泉街のペアチケットですよー。当たったら行きましょう!」

「それはいいな。温泉街を探索して……」

「汗をかいたら露天風呂へ入って一流ししましょう」

「そんで夜は旅館の食事を堪能して」

「夜は一緒の部屋で……あっ」


 僕と妹ちゃんは一緒の夜を想定してしまい、互いに目を背けてしまった。そもそも、そんな関係でもないのに行っちゃ駄目だろうに。


「テンションに任せて適当に言っちゃダメだね」

「さすがにお兄ちゃんが許してくれなさそう」


 気を取り直して、1回分引いた所……。



 ーーーーーーーーーーーーー


 僕と妹ちゃんはゲームセンターへとやってきた。

 つまりティッシュより少しマシな5回分のゲームセンター利用権だった。受付でその分のコインを貰う。


「妹ちゃんはゲーセンはよく来るの?」

「よく来ますよ〜。でも私はお金ないので見ている方が多いですね。あ、プリクラとかはよく撮りますよ」


 プリクラか。男子同士で撮った時は悲しみを背負っていたよなぁ。

 妹ちゃんが当てた5回分だからしっかり付き合わせていただきましょう。


「じゃあプリクラ撮りましょう」


 いきなり僕の心が折れそうです。

 狭い撮影機の中に入る。これって男女だったらカップルで撮るやつだよね。へんな顔しておちゃらけて……。いいのかなぁ僕と一緒に撮った所でなんの得もなさそうだけど。


「太陽さん、もっと近づいてください」

「わかったから引っ張らないで!」


 互いに体を寄せ合う形となる。撮影機の画面越しで見える妹ちゃんの容姿はとても可愛らしい。どんな顔していいかわからない。


「こんな機会ないんですから、もっともっと!」


 えらく積極的だな。妹ちゃんは顔はどことなく照れているようにも見える。無理している……?


 私ね……太陽さんのこと好きになったかもしれない


 僕のことが好きだからこんなに積極的になんだろうか。

 いや、それは自意識過剰だ。でも腕まで絡ますんだよなぁ。心臓に悪い!

 あ、なんかいいにおいがする。体もやらかい!


 ドキドキのプリクラはすぐに終え写真が出来上がった。

 笑顔引きつってる! 平静装うなんて無理だよ。


「太陽さんと一緒の写真だぁ」


 嬉しそうに目を輝かせている妹ちゃん。何も考えるまい。

 期待しすぎると後が怖いんだ。何も望まない。


 残る4回分としてUFOキャッチャ、ガンシューティング、車のレースゲーをやり、最後1回は……、これだ。


「太陽さん、絶対負けませんから」

「ふん、小娘め。僕に敵うと思うなよ」


 ゲーセンの定番のエアホッケーだ。

 僕と妹ちゃんは向かい合いマレットと呼ばれる打ち具を手に取る。


「勝った方は何か言うこと聞くっていうのでどうですか?」

「いいね。その身剥がされても文句は言うなよ!」


 そんなことしないけど。それに僕が勝つの確定だし。ゲーセン慣れしてない女の子に負けるほど弱じゃない。お願いは何にしようかなー。

 互いに屈んで相手の動きを見切る。

 先行は妹ちゃん。カウンターで返してやる。


「むっ!」


 ちょい待て、妹ちゃんの着ているピンクのカットソーが屈んだことによって、よく育った胸の谷間が僕の視線を釘付けにする。

 何という弾力のありそうで柔らかそうな……。


「えい!」


 その隙をつかれ、パックが自陣のポケットに入ってしまった。

 しまった!? まさかのお色気作戦だと……。

 10ポイント先取だ。問題ない。こっからが本気だ。僕はパックを本気で打ち込んだ。しかし妹ちゃんは反応する。すぐさまマレットを動かし打ち返してきた。僕は……パックではなく妹ちゃんの揺れる胸元にしか目がいっていなかった。


 結果は10対1 かろうじて1回だけ取れたけど圧倒的敗北だ。

 お色気作戦でごちそうさまだったけど、普通にこの娘強かった。反応速度がおかしい。さらに言えばこの娘運動神経も抜群だったな。


「調子悪かったんですか?」

「いや、調子はいいよ」


 君のおかげで元気になっちゃったよ!

 ほどよく汗をかき、ゲーセン内のベンチで2人で腰をかける。


「じゃあ、言うこと聞いてもらいますね」


 妹ちゃんは立ち上がり、座っている僕の前で顔を覗き込むような姿勢にする。

 ほらほら、服が緩んでしまうからそーいう屈み方はいかんよ。顔もかわいすぎて見れない、胸部は無防備で見れない。どこ見りゃいいんだ。その柔らかそうなフトモモか!

 この娘無防備だな。男性の知り合いって兄貴を除けば僕だけって言ってたから気づいていないのかもしれない。


「私のことちゃんと月夜って呼んでください」

「え」


 この娘の兄貴を名前で呼んでおり、苗字で呼ぶのは変な感じのため、僕は彼女を妹ちゃんと呼んでいる。

 当然女の子の名前を呼ぶのは恥ずかしいからだ。僕みたいな女性に縁のない男はそう簡単に呼べないんだよ。


「もう決めたので、絶対呼んでください」


 こういう所頑固なんだよなぁ。僕に名前で呼ばれたってメリットないだろうに。でもこの娘は年下だし、親友の妹……だから僕にとっても妹みたいなもの。

 恥ずかしいと思うのも年上として情けないかもしれない。

 うー、きついなぁ。


「じゃあ月夜さんで」

「月夜です」

「月夜ちゃん……」

「月夜です」


 もう一択じゃないか!

 恥ずかしがっては相手の思う壺だ。僕も立ち上がり、彼女を見据え目を合わせる。


「月夜」

「ーーーっ!」


【月夜】はばっと目をそらし、両手で口あたりを手で隠した。

 隠しきれてない頰がほんのり赤く染まる。


「もう一回言ってください」


 手を隠したままの小声で月夜はねだるような目で僕に問いかける。

 やばい、さすがに可愛すぎる。僕の全身も熱くなった。

 口が固まる前になんとか吐き出す。


「ああ、月夜」

「っ! っ!」


 月夜は後ろを向いてピョンピョン飛び始めた。

 言った僕はもう恥ずかしすぎて限界だった。この後、何度かねだられたけどもう呼ぶことはできなかった。

 月夜との距離がまた少し縮んだ気がする。


 ああ、なんだろうこの気持ち。こんな気持ちは浮かんではいけない、いけないんだ。





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