004 雨宿り
「クッソー!」
あんなに晴れていたというのに図書館を出た途端に雲が空を覆って大雨になった。
夏の気候は本当に変わりやすい。日本大丈夫なの? って思うくらい異常気象多いよな。
「あそこ、バス停があります!」
そして一緒にずぶ濡れなのは僕の親友の妹である
今日は天気予報も晴れだったのでお互い傘を持っておらず走るハメになってしまったのだ。
僕と妹ちゃんは屋根のあるバス停のベンチに腰を下ろした。
「もうーびしょびしょ」
「折りたたみ傘を持っていけばよかったよ」
お互い後悔の言葉を吐く。くー、パンツまで濡れてんなこれ。ラフなTシャツを絞って水気を抜く。半パン、サンダルで本当によかった。さらに防水のカバンでよかった。中の本は無事だろう。妹ちゃんもカバンからハンカチを取り出し栗色の髪を拭く。
背中まで伸びた髪が水を得て、輝いているように見える。背中に張り付いている所も珍しくてイイ。
風呂上がりって感じだろうか。なんだか色気を感じるな。
「太陽さん?」
「なんでもないよ」
凝視しすぎたようだ。しゃーないじゃん、かわいいだもん。
目の保養と思えば雨で濡れることも悪くない。
「ハンカチもってないんですか?」
「恥ずかしながら忘れてたよ……」
普段持ち歩かないんだよな。トイレ行っても服で拭くし。ズボラな性格は良くないな。濡れた髪や顔は夏の風で勝手に乾くものだ。
こんな風にハンカチを当て……。
「ちょ!」
「動かないでください」
妹ちゃんがハンカチで僕の顔を優しく拭いていく。そ、それよりだいぶ顔が近いんだけど……。目がくりくりしてて、まつげが長くて……唇もきっと柔らかいんだろうな。 って駄目だ、顔をみているとまずい!
別のところを見よう。僕は視線を下ろす。妹ちゃんの白のブラウスが透けて……ピンクの中身が見えてしまう。
「や、やば!」
「ちゃんとまっすぐにしてください」
妹ちゃんはスタイルが良いのは知っている。夏始めにみんなで遊びに行った時にその大きさを目に焼き付けたのは記憶に新しい。
美人でスタイルいいとか完璧か! 他にも頭が良かったり、声が綺麗だったり、性格も優しくて……パーフェクトか!
ただ、下着として見たわけではなかったのでこの刺激はさすがにきつい。ただ……友人として、この女の子の兄の親友として……言わないといけない。
「さっきから目を瞑ってどうしたんですか」
「そ、その……、服透けてるから……あまりね」
「透けて……? ひゃっ!」
もう目を開けて良さそうだ。妹ちゃんは両手で胸を庇い、背を向けてしまった。背中のも透けてんだけどそれはいいか。
「拭いてくれてありがとう。大丈夫だよ」
「うぅ……、太陽さん……えっちです」
そんな涙目で言わないでよ。むしろその表情の方がえっちだよ。じとりと後ろ目で見られるがそんな表情も実に絵になる。でも少し居たたまれなくなり、僕たちは無言になった。会話のきっかけがどうにも見つからない。雨は相変わらず止む気配がない。バスもしばらく来ないみたいだし……、このままかなぁ。
この気まずい空間を破る声が出た。
「クシュン」
くしゃみ? そうか雨で濡れて冷えたのか。
「大丈夫?」
「はい、少し冷えただけなんで」
妹ちゃんも薄着のブラウスだ。当然脱ぐことはできない。何か上から羽織るものでもあれば……。あ、完全に忘れてた。
僕はカバンからそれを取り出し、妹ちゃんの体にかけた。
「太陽さん?」
「図書館が寒かった時のことを考えて上着持ってきてたの忘れてたよ。肩を冷やしたら駄目だからね」
「で、でも太陽さんが寒いんじゃ」
「ふっ、僕は運動部だからね。鍛えてるのさ」
「先日まで入院してたじゃないですか」
ぐっ、それを言われると何も言えない。まだ復帰できてないんだよな。でも女の子に風邪を引かすわけにはいかないしなぁ。
強がりで腕を組んで仁王立ちしてみた。
「太陽さんのにおいがする……」
え、そんなくさい?
洗濯したてではないけど、汗とかやばかったかな。
顔を綻ばせ、目が柔らかくなっている感じがした。僕の上着を大事そうに両手で抱えて、誰にも渡さないようにしっかりと掴む。
「太陽さんの上着……」
私ね……太陽さんのこと好きになったかもしれない。
親愛でそんな顔をするのかよ。
僕には……分からない。でも胸が熱くなって、顔が熱くなって、上着なんていらないよ。
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