1章 8月中旬
001 スーパー
退院した次の日、僕は近くのスーパーへ足を運んだ。
リハビリというのもあるけど無性にアイスが食いたくなったんだ。
クソ妹が冷凍庫にある僕の分まで食いやがって……。ほんと親友の妹と変えて欲しいわ。
「あ……」
店内に入ってすぐ……その親友の妹、
妹ちゃんは奥の野菜売り場でキャベツを選んでいた。妹ちゃんは親友と二人暮らしをしており、お世辞にも普通の暮らしをしていると言い難い。
そんなわけでお財布事情は妹ちゃんが握っており、彼女が日常の買い物をしている。
声かけて邪魔するのも悪いし、コンビニでアイスを買おうかな。入ったばかりの店内をくるりとまわり、出口へ向かって歩き始める。
「太陽さん!」
「うわっびっくりした!」
大きな声にびっくりし、振り向くと妹ちゃんが側にいたのだ。
夏休みだが学校指定のブレザーを着ている。ホントに顔立ち整った女の子だよな。くりくりした二重の瞳に見つめられるだけで思わず照れてしまい、後ろに下がってしまう。
「ハァ……ハァ……奇遇ですね」
「なんで息切らしてるの。しかもあんな遠い所にいたのに……あっ!」
「あーーー! やっぱり私のこと無視したんですね! ひどい」
妹ちゃんはぷぅと頬を膨らませてそっぽを向いた。背中まで伸びた栗色の髪がふわりとゆれる。かわいい子はどんな仕草でもかわいいよな。思わず僕は笑ってしまった。
僕たちは会計を終え、店内から外へ出る。
「今度から絶対無視しないでくださいね!」
「わ、わかったよ」
妹ちゃんの顔を見て、僕は昨日のことを思い出した。
私ね……太陽さんのこと好きになったかもしれない
確かにあれは妹ちゃんの声だった。
でも、今の感じだとそんな恋をしているようには見えない。やっぱり親愛の好きだったのかな。
残念のような、安心のような。機嫌だけは取っておこう。
「お詫びにこれをあげるよ」
僕はこのスーパーで使えるクーポン券を渡した。一部を除いて店の商品を100円引きできる。
「こんなのもらえないです。そりゃ私の家は……」
妹ちゃんの顔が少し曇る。変に勘違いさせてしまったかもしれない。別に貧乏を同情したつもりはこれっぽっちもない。
違う、僕は妹ちゃんのそんな顔は見たくない。こんな時に伝えるべき言葉は……。
「だって、100円で妹ちゃんの料理が食べられるなら安いもんでしょ」
「えっ?」
「今度美味しい料理を食べさせてよ。前食べた妹ちゃんの作った肉じゃが、すんごく美味しいかったからさ。僕、君の料理がすごく好きなんだ」
「好き……、私の料理好きなんですか……えへへ」
妹ちゃんは頰を赤くさせ、手で顔を覆う。少し潤んだ瞳がとんでもなくかわいく見え、僕は喉を鳴らしてしまう。
彼女は料理上手であり、親友の家へ遊びにいった時に食べさせてもらったことがある。エプロン姿の彼女の姿が印象的で……、いや、それはいい。
そ、想定してた反応と違うんだけど……。このまま一緒だと僕の精神がまずいかもしれない、帰ろう。
「じゃあ僕はこれで」
「どこ行くんですか」
腕を掴まれてしまったぞぅ。
「今から私の料理食べに来てくれるんですよね!」
「え、こ、今度じゃ」
「いっぱい作ります! 太陽さんの好きな肉じゃが」
妹ちゃんは僕に手招きをする。
「さっ、行きましょう!」
肉じゃがも好きだけど、僕の腕を引っ張る妹ちゃんがとても愛らしくて僕はもうたまらんでした。
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