魔女がいた夏

竹神チエ

研修記録 執筆者 倉田尚

8月9日(金)

Page 1 おねがい

 正直、困っている。俺は――というか、こういう文章では「僕」と書いた方がいいのかもしれないが、毎日こつこつと日記を書くタイプじゃなければ、作文なんかを喜んで書くタイプでもない。流行りのブログだTwitterだなんてのも、なにが楽しいのかわからないんだ。 


 そんな奴がノートと呼ぶには分厚い、二、三センチ程の本を渡されて、このページが全部埋まるだけ「私たちのこと」を書いてよと言われたんじゃ、憂鬱になるなってほうがおかしいだろう。


 そりゃあ、見本があればなんとかするだろうけど。あくまで「あなたの自由に書いてちゃうだい」じゃ、どうしようもないってもんだ。


 でも、リリスが帰るまで、あと六日。

 この六日間でなんとか仕上げないといけない。


 じゃないと、リリスの成績に影響する。もし、彼女が試験に不合格になったら、俺は……じゃなくて僕はすまないと思う。だから、自分なりに頑張って書いていこうとは思っている。とりあえず、最後のページまで文字を埋めようって。


 だから、試験官殿。それとも試験官さま、かな。


 あなたが僕の書いた「記録」を読んで、もし、リリスの評価が下がってしまったのなら、それは僕の文章力、あるいは性格やものの見方によるものだ。リリスは優秀で有能で、とんでもなく王国の役に立つ人材なんだ。けっして判断を間違わないでもらいたい。


 もし、僕に頼めることがあるとするなら、そのことは忘れないでくれ。

 いきなりあなたたちの「決まり」に巻き込まれ、夏休みの貴重な二週間を魔女に捧げる人間からの、「最後の願い」なのだから。

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