番外日誌 「エリス祖母の想い」
これは、エリスがウィンドガル王国を出た時の物語……
ヴィオル・アスカルド公爵令嬢は、エリザベスの父を捕まえた後ある場所へと向かった。そこは、王都からかなり離れたところにある、小さな一軒家だった。その家の庭で、遠くを眺めている老婆がいて、ヴィオルはその人に声をかける。
「お孫さんは旅立ちましたよ。カリナ様」
ヴィオルはそう声をかけるも、カリナと呼ばれるその老婆は振り向きもせず
「そうかい」
とだけ呟いてひたすら遠くを眺めている。まるで、遠くに行く孫娘を最後まで見送ろうとするかのように……こんな場所からでは孫娘の姿なんて見えもしないのに……
そう。この老婆こそ、エリスの祖母カリナ・マグダエルである。
「会っていかれないんですか?カリナ様が全財産を全て魔力数値回復薬に変えてあの娘に渡すように言ったのに……」
エリスは自分が持たされた大量の魔力数値回復薬は、魔法省が自分の情けで持たせてくれたと思っているが、実は、その薬は全てカリナが全財産を出して買ったものだった。
「……今更どのツラ下げてあの娘に会えると思ってるんだい。どうせ私は老い先短いんだ。私があの娘の為にしてやれる唯一の事をしただけさ」
カリナは軽く溜息をついてそう呟いた。
カリナは常々エリスにマグダエルの命を果たせない時の為の準備をしろとは言ってきても、最終的には自分も王妃教育には力を入れていた。そうすれば、孫娘が幸せになれると信じて……だが、結果はこの通りである。
「…………私達に言いたい事はないんですか?」
ヴィオルのその言葉は、王族である自分達に言いたい事はないのか?という意味だ。それをちゃんと察したカリナは……
「今更何を言えと」
「それでも、王族の1人として聞いておきたいんです」
「だったら……言わせてもらうよ」
その時、カリナは初めてヴィオルを見た。いや、睨みつけたと言った方が正しいかもしれない。
「何でだい!?何であの娘だけが罪を背負わなきゃいけない!?確かにあの娘やったのは悪いことさ!?けど!あの娘は王妃になる為に必死だっただけじゃないか!?なのに……!なのに……!?何で……!?あの娘ばかりが……!!?」
カリナは怒りと悲しさと後悔が入り混じった表情でヴィオルにそう叫んだ。その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「……申し訳ありません。としか言えずに本当に申し訳ありません」
「……分かってるさ。だから、言ったろ。今更何を言っても無駄だって。それに、あの娘の望んだことでもあるし……」
カリナは先程浮かべた複雑な表情を引っ込め、再び遠くを眺め
「達者で暮らすんだよ。エリー……」
と、もう会う事がない孫娘に向かってそう言った……。
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