3月1日 夜 「私のイメージしていた吸血鬼とは全然違う……」

3月1日 夜


私と少女がたどり着いたのは、コアール町という若干村とも言えるような小さな町である。到着した時には既に夜になっていたので、私達はとりあえず宿屋で部屋をとり、約束通り私は少女にご飯を奢る事になったのだけど……


「それじゃあ……いただきます」


少女は山のように積まれた料理の数々を一気にたいらげ始める。正直、見ているだけでお腹が一杯になりそうだ……お金……大丈夫かな?足りてるよね……?

私は、そんな若干の不安を打ち消したくて、少女に話しかけた。


「ねぇ、今更だけど……あなた名前は?」


「わふぁひぃ?ふぇいふぁへほぉ」


「とりあえず、食べてる物をちゃんと飲み込んでから話してもらえると助かるわ」


私の言葉に従い、少女は無表情で食べていた物を飲み込んで


「私の名前はレイだよ」


その少女、レイは簡潔に自分の名前を名乗った。


「その……レイさんは……」


「レイでいい。さん付けとかむず痒いし」


「分かったわ。じゃあ、レイは……吸血鬼なの?」


私の血と魔力を吸った感じから、私はレイが吸血鬼でないかと思っていた。


「ん、そうだよ」


レイは山のような料理を食べながらアッサリと自分の正体を答える。


「私の血を吸った感じからそうじゃないかとは思っていたんだけど……本当に吸血鬼だったなんて……もしかして、倒れてたのは日差しのせいもあるの?」


「いや、あの時言った通りお腹が空いたからだよ。私別に陽の光ぐらい平気だし」


「えっ!?吸血鬼は陽の光が苦手なんじゃないの!!?」


私の知識だと、吸血鬼は陽の光に弱くて、灰になってしまうというような逸話もあったんだけど……


「まぁ、吸血鬼が住んでる国ってのが常夜ノ国って呼ばれてて、太陽が滅多に昇らない所だから、最初は陽の眩しさにやられるけど、慣れればどうってことないよ。私の知り合いの吸血鬼なんて、ビーチで水着で日光浴するのが日課って言ってたし」


どんな吸血鬼よ!?それは!?こうなると、アレももしかして……


「吸血鬼が十字架が苦手って言うのは?」


「私の友達の吸血鬼に熱心な信者で、シスターやってる娘がいるけど」


つまり平気なのね……それじゃあ……アレも恐らくは……


「ニンニクがダメっていうのは……」


「今私が食べてるのニンニクたっぷりのミートスパゲティだけど」


そう言えばそうだった……じゃあ……残るは……


「杭で心臓を貫かれないと死なないって……」


「それは、吸血鬼じゃなくても人間でも死ぬでしょ」


ごもっともね……どうやら、私の知る吸血鬼知識は全部デタラメみたいだ……


「っていうか、えっと……」


「私の名前はエリスよ」


「エリスの吸血鬼に対する知識って、大昔に、人間が面白半分で書いた本のやつだよね?いくらなんでも常識に疎すぎじゃない?」


うっ!?常識に疎いか……耳が痛いなぁ〜……なんせ私は、幼い頃から屋敷と王城しか行かず、王妃教育に熱を入れていたから、吸血鬼とかの知識も本程度しか知らないのよね……


「その……私、ウィンドガル王国から出たばかりで……吸血鬼とか魔族の人達とあまり交流しなかったから……」


私は咄嗟に誤魔化す為の言葉を述べたが嘘はついていない。エルフや獣人などの亜人族とは交流があったウィンドガルだけど、吸血鬼などの魔族と呼ばれる人々との交流は一切なかったし。


「あぁ、ウィンドガル出身なんだ。だからか」


レイも無表情だけど、どこか納得したようにそう言った。

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