第2話 蝉の求愛
「食事って、ここで食べるの? 」
柊悟の自宅玄関
「そうだよ」
無論、マクドやコンビニのフードコートも考えたが、そんな所で、こんなに目立つ女の子と寛いでいたら、学校の連中に見られる可能性もあるし、あの黒のハイエースと出くわす可能性だって高い。
「ココって、あなたのお
辺りを見回す様にツキノが呟いた。
“
地元の
「家は俺のものじゃない。持ち主は父さんだよ」
「貴方の家に変わりはないじゃない」
「そりゃそうだけど……」
そこまで言葉を並べると庭先からパタパタとサンダルで駈ける音が近づいて来た。
「シューゴちゃん、洗濯機回したまま、どこ…… 」
柊悟の隣に立っている女の子の姿に気が付いたのか、妹である
「シュ―ゴちゃん、その人はお客様? 」
「そう…… なる…… のかな? えーっと…… 」
アオマキガミアカマキガミ……
「こんにちわ。月野真咲です」
そう、それ!
「シューゴちゃんの妹の
四葉はお気に入りだと言う麦わら帽子を取りながら、丁寧にお辞儀をしているものの、その視線には明らかに不審感が宿っている。
「この辺りの人じゃないですよね。高校のオトモダチですか? 」
それは、質問というより、“答えなさい”と言う命令。
母親の事もあり、四葉は基本、自分以外の女性を信用していない。
「海で知り合ったばかりなの」
困ったように笑い、そう答える月野真咲。
「逆ナンでもしたんですか? シューゴちゃん、コレで結構モテますから、
「四葉のクラスでは、今、
恥ずかしい上、間違っているため、一応の抗議。
「シューゴちゃんは黙ってて! 」
下唇をきつく結ぶようにして、ピシャリと言い伏せる妹の四葉。
本人が聞いたら、怒りだすと思うが、最近は顔だけでなく、チョットした表情や仕草までもが母親に似て来たと柊悟は感じていた。妹と自分、そして父を捨てて家を出て行った母、
「お兄さんには危ない所を助けて貰って、これからご飯をご馳走になる所なんです」
いつの間にかご馳走するのが前提だが、取敢えず、この月野真咲なる女の子も場の空気を読んで、経緯を話してくれている。
庭にある桜の木にツクツクボウシが留まり、大きな声を上げ始めた。
なぜ、他の蝉は2ストロークのシンプルな鳴き声なのに、彼らは4ストロークで鳴くのだろう。セミの鳴き声が求愛行動の一環だとすると、ツクツクボウシはスピードは求めない省エネ主義者なのかもしれない。
「月野さんもお母さんと色々あって、着の身着のまま家出したんだってさ」
本来、このセリフは反則技だ。母親嫌いの四葉には沁みる言葉。
「 ‼ 」
案の定、四葉はただでさえ大きな瞳をまん丸にした。
「シューゴちゃん、なんでソレを先に言わないの! いつも言葉が足りないって、教えてるでしょ! ササッ 月野さん、広いだけが取り柄の家ですが、どーぞ! お入り下さい」
捻挫するほどの掌返し。共通の敵を持つ者を見つけた四葉に捉まれば、おそらく1時間は解放されないだろう。
そう思うと柊悟は少しだけ、月野真咲が気の毒な気もした。
ツクツクボウシは相変わらず、4ストロークで鳴き続けており、暑さを増長させている。悟朗も家に入り涼みたい気分になって来た。
「まぁ、ここじゃあ暑いから、入ってよ月野さん」
四葉に腕を引かれている事に戸惑っている月野の姿が意外だったが、柊悟は背中越しに声を掛ける。
「それじゃあ、お言葉に甘えてお邪魔します」
深く頭を下げ、玄関で靴を丁寧に揃えるその姿に、不思議と育ちの良さを感じた。
偽名の件の事も含め、イマイチ、キャラクターが摑めない。
そんな事には気が付いていないと思うが、横から四葉の咳払いが聞こえてきた。
「あたしはお客様のお相手をするから、柊悟ちゃんは月野さんとあたしに冷たい飲み物とサッと食べられるおいしい物を出してくれる? 」
“仕切るのはあたし”と言う意思表示なのだろう。
「分かった」
素直に頷いたものの、『サッと食べられるおいしい物』とは何だろうか。柊悟はそんな事を考えつつ、バイクを通りから見えない倉庫しまう為、裏庭へと向かった。
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