五
夏になって、学校では俺と彼女がつきあっていると誤解されだした気がする。当然か。でも、恋愛関係でもなんでもなかった、友達だったよ。普通の。
町の夏の盆祭りと共にその駅では毎年ライブが開かれていた。今でもまだ続いているかもしれない。
祭に誘ったのは俺からだった。確か、汽車の中でだったと思う。多分、これと同じだ。
「祭、行く?」
「行くよ。来る?」
「もちろん」
「良かった」
そのお祭りには、俺は普段どおりの格好でお祭りに行ったんだけど、彼女は淡いピンク色の浴衣で来た。
「どう? 似合う?」
「……うん」
「ありがとう」
彼女は、まだ俺に何かを言ってほしい感じだったけど、いい言葉は思いつかなかった。そもそも女子の浴衣姿なんて初めて見るものだったから、恥ずかしくてそれぐらいしか声をかけてやれなかった。
「どしたん? ずっと顔が下向きがちやん」
「ちょっとさ……」
「あー、もしかして恥ずかしいん?」
向こうは笑って浴衣の袖をぱたぱたさせてきたけど、俺は無言で頷くしかできなかった。笑ってるんやない。男子はそんなもんや。そういえばお前の浴衣姿は見た事無かったな。
「気にせーへんって。そんなんじゃ楽しめんやろー」
それからよくある屋台で買い食いしながらライブの時間まで暇を潰していた。時々、中学校までの友達に会った。中学の時の友達には、春が俺の彼女だと勘違いされてしまった。一応否定はしておいたけれど、向こうは付き合っている思い込んだままだろうな。
夏休みの間はこの日しか会わなかったと思う。
秋になって学校祭が近づくとクラスが違うから、朝の集合時間も違って来て一緒に行く事は少なくなっていた。たいだいは春が先に行っていたけど、俺は遅刻しまくってた。でも、部活よりも学校祭のこと優先になって休みになると、どちらのクラスも遅くまで残っていたから一緒に帰ることができた。
土曜日も返上して学校に行った時の事は忘れないさ。最終下校時間までどのクラスの残っていて、一緒に帰ることになった。
帰り、いつもの駅に着いて、
「家まで送ろか?」
って聞いたんだ。そうしたら、遠くから、花火がパーンって。とても綺麗だった。
「花火大会、今日だったんだね」
「俺も知らんかった。きれいやな」
「しばらく見よ?」
二人で一時間ぐらいずっと駅で花火を見ていた。その駅から遠くの岬が見えていて、そこで打ち上げていたわ。
「来年も見れるかな?」
「見れるとええね」
「見れるやろ来年も」
「やんな。再来年も……」
この花火大会に彼女の両親も行っていて、彼女はその車に乗せて帰っていったから、送っていく事にはならなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます