三
──かなりの田舎のことだから、きっと都会の人には理解されない気がして、ここまで黙っていたんだ。前に話した時も信じられない、みたいな反応してたやんか。
えっと、何から話そうか……。
とりあえず小学校中学校は一学年がだいたい十人ぐらい。……そんな顔しない。本当にそうなんやし。俺が知ってる学年で一番多い学年は十七人やったかな、俺らの学年は八人で全員男子。幼稚園の頃は少し多くて、女子も二人か三人かいたけど小学校の時に上がった時にはいなかった。たぶん、別の小学校に行ったんだと思う。女子と話したことなんて小学校中学校の間全くといっていいぐらいなかった。
前に東京の話を聞いた時、自由登校に驚いていたけど、俺が住んでいたあたりの小学校は大体集団登校で、公園とかに近所に住んでいる児童が一度集まってから学校に行ってた。面倒? たしかに面倒だった。
ひとりひとり、自由に小学校に向かうなんて、アニメの世界の事だと思ってたから、この前の話を聞いた時は本当に驚いたわ。
……普段何して遊んでたって? 近所の駄菓子屋で菓子買って、公園でサッカーとか野球とか。中学校になってもそんなものかな。テレビゲームを持ってる人なんて少なかったから、そいつの家に押しかけて遊んだりしてた。「買い物に行く」なんて娯楽も「ゲーセンに行く」なんて娯楽も俺らにはなかった。ゲーセンに行くのも、だいたい家族で車で買い物に行った時にスーパーの隅にある小さいものぐらい。ボウリングだって年に一度の子ども会の行事で行くぐらいだった。カラオケに始めて行ったのも高校の時が初めてだった。近所にカラオケなんてものがまずなかったから。
――子ども会を知らない? そうか、知らないんか。なんていうか、町内会の中で、小学生向けに地域でイベントを企画したりする組織だよ。お祭りの主催もやってたしね。えー、町内会が何かって? 面倒くさいなあ。町内会ってようは、ご近所の集まりの会よ。回覧板回したりとかやってる。
戦争時代じゃんって、普通に今でもやってるよ。そうだ、マンションの管理組合みたいな感じ。分かってくれたか。
中学校になっても娯楽はあんまり変わらなかった。自転車で少し遠くへ行くようになったぐらい。無免許で原付を運転して、更に遠くを目指したけどね。海沿いに走った事しか覚えていないけど。あと汽車に乗って都会へも時々行けるようになった。都会といっても東京や大阪みたいな大都市じゃなくて、特急が止まる駅がある街を「都会」って言う。ようはさっきの松山が俺らにとっての都会だった。東京23区に生まれた君には想像も出来ないような話じゃないかな。高いビルとかそんなの、修学旅行以外で見たことなかったから。
中学校は家からかなり離れてて、徒歩30分ぐらいかかった。人数は周りの町全体をまとめたような感じで割りと多かったと思う。一学年八クラスぐらいあった。
きっと君は俺のふるさとでの生活は出来ないと思う。……いけるって言ってるけど絶対無理。東京みたいに楽じゃない。「買い物」なんてそれこそ「買い出し」という言葉が似合うほど大層なものだったんやから。それに免許持ってないやろ? そもそも車社会だからね、大体の田舎は。
ここから、高校の話をしよう。
家から自転車でいける場所にも高校もあったけど、レベルが俺には低くて少し町の方の高校に行った。ただでさえ家から駅までも近くはないから駅からアクセスのいい高校から調べていって、見つけた高校の学力を見て、行けそうなレベルとか妥協の範囲内だったら、学校見学なんかやっていなくても実際に高校まで足を運んでどれぐらいかかるか計ってみたりとか。
そして入ったのが、風浜高校だった。さっき通った風浜駅の近くにある高校。
レベルが自分からすると少し高めで、勉強についていくのがしんどくてけっこう落ちぶれていった。そして結局、専門学校に行ったわけやけども。
ここからは一気に夢見た都会の生活が始まった。学校の帰りに飯に行ったり、ゲーセン寄ったり、買い物したり、都会っていいなーって思ったのもこの頃。きっと大阪や東京はもっとすごい日常を送っているんやろうなあって。
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