エピローグ そして続いていく日々

第298話 戻ってきた日常

 殿下の言ったとおり2週間後、ちょうど月末に戦争終結の号外が出た。

 夜間外出自粛も解除され街はいつも通り。

 いや、ちょっと街全体が浮かれ気分かな。

 戦争に勝ったという事で。


「でも圧勝したのに弱腰だよな。賠償金とか色々こっちの要求は少ないしさ」

「そうそう。スオーが一方的に攻めて来たんだしさ。責任は全部向こうだよね」

 クラス内に限らずそういう意見は多い。

 でも俺は第一次世界大戦から第二次世界大戦につながる歴史を覚えている。

 殿下の記憶にも似たような事案があるのだろう。

 だからか賠償金だの色々の設定は弱めだ。

 責任追及も一方的な裁判にならないよう色々やっているらしい。


 そう言えばオマーチの皆さんも再び研究室を行き来するようになった。

 なお向こうは3人から4人に増えた。

 増えたのは新人で中等部1年のナダ・ムカイ・フチューさん。

 やはり亡命貴族の娘だそうだ。

 使用魔法は論理魔法といって、命題を与えれば答えになる組み合わせを瞬時に全て計算できるものらしい。

 これも使い処が難しそうな魔法だなと俺は思う。

 思うけれど、だ。

 それより先に言いたい事がある。

 何で戦争が終わると同時に水着姿が研究室に出現するのだ!


「だって戦争中だとやっぱり不謹慎な気がするじゃない」

「そうそう。それにどうせなら快適な方がいいだろう」

「先輩方に聞いていたんですけれど、確かにこれはいいですね」

「そうなんですよ。これ、向こうにも作りたい位です」

 そんな声の一方で俺とタカス君はため息ばかり。

 そう言えば俺達の研究室もやっと人員募集自粛を解除された。

 条件は昨年と同じだそうだ。

 でもこんな処に新人が果たしてきてくれるだろうか。


 一応真面目な方の業績も増えている。

 ミド・リーの病気の症状と治療過程についてのレポート、戦争終結寸前に完成したのだ。

 ミド・リー自身による血液成分の変化とかユキ先輩による白血病細胞の描写とか入ったかなり内容が濃いものになった模様。

 本格的な発表は来週だが既にあちこちから資料請求も来ている。

 これで治療困難な病気が少しでも減ればいいな。

 他人ごとではなく俺はそう思う。


 なお戦争が終わった事によってそれまで止めていた技術の一部が公開され、一般でも使用可能になった。

 なかでも一番活躍しそうなものは蒸気機関だ。

 自動車や船の他、ポンプだの色々なところに蒸気機関を使えるようになった。

 今後10年は使用するごとに特許料が俺達の手に入る。

 予想ではとんでもない額が入ってきそうだ。

「だから新人歓迎合宿は思い切り豪華にするのだ!」

「って新人まだ入っていないだろ!」

「ナダちゃんが入ってきたから充分なのだ」

「でも毎年のあれだけでも充分豪華じゃなのでしょうか」

「うむむ、確かにあれ以上にする案が思いつかないのだ!」

 何だかなと思いつつ、まあいいかとも思える。


 考えてみれば俺も随分贅沢になったよな。

 昼飯も今では普通に菓子パンとかになったし。

 しかも売れ残りではなくちゃんと購入したものだったりする。

 姉の店はいまだに売れ残りがほとんど出ないし。

 なおシンハ君も同様だ。

 奴は時折学食でランチなんて頼んだりもするらしい。

 2年前は2人で売れ残りのパンを分け合っていたのに。

 そう考えると随分な進歩だ。

 特上ランチ小銀貨3枚3,000円は勿体なくて奴も未だ手が出せないらしいけれど。


 さて、俺もそろそろ次の制作課題に取りかかろう。

 今やろうと思っているのは電気の完全交流化だ。

 記述魔法で色々制御が出来るようになったので、電圧を変換するのが楽な交流に色々切り替えようと思ったのだ。

 更にモーターや発電機も新型を考えている。

 ブラシレスのタイプだ。

 これと記述魔法を組み合わせたモーターは回転数制御が簡単になる。

 発電機はブラシの消耗が無くなりメンテナンスが一段と楽になる。

 電圧の変更も簡単だ。

 出来れば鉄以上に強い磁石を作れる物質をタカモ先輩に開発してもらえば一層強力なものが作れるな。

 ちなみに最終目標はドローンの制作。


 他にはターボファンタイプのジェットエンジンなんて課題もある。

 この辺はキーンさんとかシモンさんが色々試作中。

 こういう目に見える品を作るのがやっぱり俺には向いている。

 なにより楽しいしさ。

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