第289話 俺達の戦い

 ◆◆◆ 注意書き ◆◆◆

 ここ以降でミタキ君が治療している急性白血病はあくまでこの世界の病気です。彼の前世の世界での急性白血病と全く同じ病気であるとは限りません。よって治療方法や治療方針もかなり異なると思われます。

 読者様のいらっしゃる世界の病気と同一なものと思わないようよろしくお願いいたします。

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ミド・リーの着替え一式と本人を連れて俺は研究室へ。

 なお身体強化を使った上で更に移動魔法も使った。

 ミド・リーの体力が尋常じゃない位弱っていたから。

 移動魔法は禁止ではなくあくまでも自粛だ。

 だから問題無いだろう。

 なお途中で自分の家にも連絡を入れてある。

 学校でやりたい事があって1週間ほど泊まり込むと。


 研究室には時間的に誰も残っていないだろう。

 そう思ったのだが人の気配があった。

 フールイ先輩だ。

「会議室にマットと布団を運んである。荷物は私が持つ」

 まるで俺がこの状態のミド・リーを連れてくると知っていたような対応だ。

 何も聞かずにそう俺とミド・リーがいいように動いてくれる。

「何故用意してあるんですか」

「可能性の一つとして魔法杖で見た」

 簡単な返答だ。

「あくまで可能性の一つ。だから皆には言っていない」

 でもそれで残っていてくれたのか。

 会議室の奥、テーブルを固めて作った即席ベッドの上に仮眠室のマットを二重に敷いてその上に布団と枕がのっている。

 ミド・リーをとりあえずそこに寝せてたところで。


「起きているうちにある程度食べた方がいい。病人食を用意している」

 そんな物まで作ってくれたようだ。

 会議室の隣のキッチンから大きめのマグカップにスプーンと入った半透明のぷるぷるした物を持って来る。

 見たことが無いゼリー状の食べ物だ。

「無理しても腹に入れた方がいい。崩して飲むのがお勧め。食欲が無くても食べやすい筈」

 ゼリーというには少し崩れやすい感じで、スプーンでかき混ぜるたけで崩れる。

 ミド・リーがカップに口をつけ、最初はおずおず、途中からは一気に飲み込んだ。

「冷たくて気持ちいい。美味しい」

「山岳地帯の病人食。動物の軟骨部分を高熱で煮出して刻んだ果物を入れた物。少し水飴とレモンを入れて味を調えてある」

 銀色パックに入った似たようなものが前世でもあったな。

 まさかこの世界にもあるとは思わなかったけれど。


「後はミタキに任せて寝た方がいい。着替えさせるからミタキは外で準備」

 何というか色々有難い。

 そんな訳で俺は研究室に出て使用するものの準備をする。

 魔法アンテナ色々。

 魔力クレソンの青汁。

 魔法缶あるだけ、といっても4個。

 取り敢えずそんな処かな。

 魔法缶は出来ればもっと欲しいところだけれど、ガラス繊維等足りない材料があって今は作れない。

 電気自動車から外した2個と予備の2個で全てだ。

 オマーチのタカモ先輩がいれば増産も出来るのだろうけれど。


 魔力アンテナは少しだけ改造しておく。

 手で持ったり足で踏んだりする部分から導線を這わせ、魔力電池や手首と足首で電極を固定できるように。

 途中から多分寝たままになるからこの改造は必須。

 あと魔力クレソンの青汁を寝たまま飲めるように容器とストローも作ろう。

 容器は魔力が漏れないように魔法銅オリハルコンで。

 味そのものは『うーん、不味い』レベル。

 間違っても『もう一杯』というものじゃない。

 でも魔力回復効果は絶対的な手助けになる筈だ。


 会議室からフールイ先輩が出てくる。

「ミド・リーさんは睡眠魔法で寝らせた。だから作業開始。必要な事はなんでも言ってくれ。協力する」

 でも外はもう暗くなる寸前程度。

「もうすぐ外出自粛の時間です。明日の授業もありますし、この辺で大丈夫です」

「それはミタキも同じ」

 言われてしまった。

「授業を2~3日休む程度は無問題。こっちの方が優先順位が高い」

 先輩は続ける。

「以前私はミタキに頼った。だから今回は頼って」

 先輩の台詞はストレートだ。

 逃げ場がなくて有難い。

 涙が出そうになるのを堪える。

 泣くのはまだ早い。


「それではお願いします。まずはこの杖をミド・リーに向けてセットします」

 鑑定魔法、誰でも生物系魔法、同じく工作系魔法、記述魔法の魔法アンテナだ。

 高さと角度を少しずつ変えて4本をセットする。

「あとすみません。マットと布団をもう1組お願いします。途中から多分俺、横になって作業をするので」

「了解」

 何故とか聞かずにフールイ先輩は動いてくれる。

 本当にありがたくて涙が出そうだ。

 実際研究室に来るまでは俺1人でミド・リーの病気と闘うつもりだったから。


 全部のアンテナの電極を長いタオル等を使って俺の腕と足に固定する。

 うん大丈夫、焦点はミド・リーにあっている。

 身体の様子を再確認。

 今度は全身に鑑定魔法を使って白血病細胞の状況を確認する。

 白血病細胞は血液中にこそ広がっているが他に転移はしていない。

 だからまずやるべきはこの白血病細胞を早急に殺す事だ。

 生物系魔法の方が能力が高い筈だが細胞一つ一つを認知する余裕は無い。

 白血病細胞の特徴を鑑定魔法で確認して、記述魔法で自動的に殺す方が効率的だ。

 そんな訳で鑑定魔法を使って特徴を判断し、紙に記載する。


 記載し終わったら念のためにもう1部作って、オリジナルは記述魔法用のアンテナに入れて魔法缶を繋いで起動。

 思った以上に魔力を食う。

 つまり標的が多いという事だろうか。

 魔法缶ではこのままでは2時間も持たない。

 それなら魔法缶はいざという時のためにとっておこう。

 仕方無く魔法缶を外して俺自身に接続。

 

 うっとかかる魔力負荷に思わず顔をしかめる。

 まずい青汁をストローで飲んで魔力を補給。

 うん、この方が長持ちしそうだ。

 俺自身には負担がかかるけれど。

 人間の方が微調整が出来る分同じ魔力でも有効に活用できるようだ。


 更に鑑定魔法を同時起動して今度はミド・リーの身体の他の異常を全体的に確認。

 身体の末端部分あちこちに血栓ができかけているのを除去。

 鑑定魔法で見るとこれもこのガンの影響らしい。

 あと赤血球数や血小板数が減っている。

 輸血をした方がいいかな。

 なら免疫抑制の魔法を事前にかけておこう。

 感染を防ぐ為にはこの部屋を無菌室化した方がいいかな。

 魔力クレソンの青汁を作って正解だった。

 魔力がいくらあっても足りない。

 こんなの魔法缶でやったら半時間30分もかからず終わってしまう。


「補給も必要」

 すぐ横で声がした。

 あと何か美味しそうな匂いがしている。

 見ると合宿中等によく作ってもらうお焼きだ。

「ありがとう」

 医療中に食事というのも何だが、これなら簡単に食べられる。

 だから白血病細胞撲滅と対症療法色々をやりつつもお焼きをいただく。

 うん、やっぱり美味しい。

 力が蘇ってくるようだ。


「やるべきことを言って欲しい。紙に書いて整理する」

 そう言ってくれるので、これからの事も考えてメモしてもらう。

  1 白血病細胞を殺す

  2 身体をモニターし場合に応じて対症療法を実施

  3 輸血を始める前に次の措置

   ① 免疫機能抑制魔法

   ② この部屋内の無菌室化とその維持

  4 全身の骨髄を確認し、異常な細胞を除去

  5 正常な骨髄内細胞を増加させる


「こんなところかな」

「理解した。このうち私が出来るのはどれ?」

「3の②、この部屋の無菌室化をお願いします」

「他には」

 さっとそう言葉が付加される。

 先輩は俺の方を見ている。

 優しいが強い視線で。

 遠慮も嘘も言わせない位に。

「1の作業は記述魔法で書いてあります。要領は説明しますのでお願いします」

「輸血は私からは可能?」

 鑑定魔法が発動する。

 AB型のRHプラスだった。

「すみません。出来ないようです」

「わかった。これを片づけたら始めよう」

 

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