第288話 最悪の予想

 俺以外の面子はトレーニング中の身体強化組以外は……

 ミド・リーがいない。

「あれ、ミド・リーは」

 同じクラスの筈のナカさんに聞いてみる。

「今日はお休みだそうです。少し体調が良くないそうで」

 そうなのかと聞いて不安になる。

 ミド・リーは細くて小さいけれど俺と違って無茶苦茶丈夫な方だ。

 しかも家は治療院で本人も大抵の治療系魔法を使える。

 更に万が一用に治療用巨大魔法アンテナすら家についている。

 よほどの事が無い限り病気で休むなんて事にはならない筈だ。


「ちょっと様子見てきます」

 考えすぎかもしれない。

 でもどうにも気になる。

 そんな訳で研究室を出てミド・リーの家へ。

 そういえば最近は1人で登校することが多かったなとふと気づく。

 帰りは研究室からだからミド・リーやシンハ君と一緒。

 でも行きは春合宿後頃から大体1人になっていた。

 春休み中は研究室に顔を出す時間がまちまちだからある意味当然。

 でも新学期が始まってからもクラスが変わったりして1人で登校している。


 昨日はミド・リー、調子どうだっただろう。

 そういえばあんまり元気がなかったかもしれない。

 でも最近の研究室は大体皆さんあまり元気がない。

 だから特に気にならなかった。


 学校からミド・リーの家まではそんなにかからない。

 俺の家を通り過ぎてすぐだ。

 勝手知ったる治療院の扉をくぐる。

 ちょうどミド・リーのお母さんが受付にいた。

「あらミタキ君、どうしたの」

「今日ミド・リーが休んだのでお見舞いです」

 ちなみにミド・リーの分のお見舞い品も持参している。

 研究室で用意していたおやつのミド・リー分だ。

 イチゴがたっぷり入った白と赤のケーキでミド・リーが好きな奴。


「2階の部屋にいますよ。ミタキ君が来てくれたなら喜ぶと思うわ」

「それじゃおじゃまします」

 勝手知ったる他人の家という事であがらせてもらう。

 でも最近は久しぶりだな。

 シモンさん達と治療用魔法アンテナを設置したのが多分最後。

 もう1年近く前の事だ。

 階段を上りミド・リーの部屋の前へ。

 扉を3回ノックする。

「はい」

「ミタキだ。様子伺い」

「どうぞ」

 声が弱い。


 開けると見覚えのあるミド・リーの部屋。

 アンテナを埋め込んだ壁の手前のベッドで彼女は寝ていた。

 顔色がいつもより白いのは見間違いでも気のせいでもない。

「大丈夫か」

 思わず俺がそう言ってしまう位だ。

「何か熱が下がらないし異様に疲れた感じがするのよ。何故か治療魔法も回復魔法も効かないし。何か以前のミタキと立場逆転って感じよね」

「とりあえずお見舞い、今日はイチゴたっぷりショートケーキだ」

 ミド・リーの大好物だった筈だ。

「ありがとう。でも今はいいから後で下にしまっておいて。食欲があまり無いの」

 重症だこれは。

 あと嫌な予感がする。


 前世で俺は長期間を病院で過ごした。

 だから入院するような病気は色々知っている。

 友達がどんな病気かなんて調べもした。

 そして治療魔法も回復魔法も効かなそうなこの症状の病気。

 俺にはいくつか心当たりがあるのだ。

 鑑定魔法を使って病気を確認する。

 最悪の予想のひとつが当たってしまった。

 確かにこれなら普通の治療魔法や回復魔法は効かない。

 むしろ悪化する。

 急性骨髄性白血病(AML)。

 それがミド・リーの病名だ。


 治療法を思い出す。

 確か強力な抗がん剤で白血病細胞を殺した後、場合によっては骨髄移植だったな。

 あと輸血が必要になる可能性が高い。

 ミド・リーは確か俺と同じB型。

 ミド・リーの両親は……鑑定魔法で見るとAB型とO型か。

 更に俺とミド・リーの血液型を再確認。


 うん、血液そのものは俺ので輸血可能なようだ。

 白血球の血液型は……流石に一致しないか。

 これは自家移植でやるしかないかな。

 治療方法と必要な材料とをもう一度頭の中で確認する。

 うん、俺なら治療が可能だ。

 そしてきっとこの世界、少なくとも今のこの環境では俺以外に治療は不可能。

 なおかつこの病気は治療の早さがその後を左右する。

 やるべき事はひとつだ。


「ミド・リー。お願いがある」

 俺は話を切り出す。

「何?」

 ミド・リーは一応聞いていてくれているけれどいかにも怠そうだ。

「俺はこの病気を知っている。そしてこの病気はここの環境や知識では治せない。だから悪いけれど俺に身柄を預けてくれ」

「……本気みたいね。今のミタキの様子だと」

 こんな時でもミド・リーには俺のその辺が読めるらしい。

 魔法ではなく見るだけで。

「お願いしてもいいけれど、一つだけ条件をつけていい」

「何だ」

「ミタキ自身が危ない方法は使わないで。それが条件」

「大丈夫だ」


 治療方針自体では俺が危ない目にあう可能性は低い。

 しいて言えば輸血の量位だろう。

「それじゃおじさん達に説明してくる。連れて行く場所は本当はあの研究室だけれど、話では研究院の治療室としておくから」

「わかったわ。話はあわせるから」

 俺は一度部屋を出て階段を下りる。

 ミド・リーの両親に彼女を連れだす許可を取る為に。

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