第268話 教育的? 指導!
質問を適当にごまかした後、飛行機の主翼外側を折りたたんで研究室に引っ張っていく。
こういう時は蒸気自動車よりシンハ君の腕力の方が便利だ。
小回りがきくし思い通りに動かせる。
何とか研究室にしまい込んで一息入れたところで。
研究室の扉がノックされた。
『殿下一行よ。アキナ先輩、ナカさん準備お願い』
ミド・リーが魔法で感知して伝達魔法で全員に知らせる。
アキナ先輩が出入り口扉へと飛んで行った。
それにしても何故冬休みの今頃殿下がやってきたのだろう。
普通は王宮もお休み期間だと思うのだけれども。
「すみません。突然お邪魔致しまして」
最初と同じ3人構成だ。
つまり殿下、ターカノさん、シャクさんの3名。
「いえ、わざわざおいでいただき光栄でございます。どうぞお入りください」
幸いお茶菓子セットもまだ在庫がある。
3時のおやつ分だけれども。
いつも通り会議室に全員集合。
菓子とお茶がいきわたった後、殿下が口を開く。
「今日来たのはそこの飛行機が飛んだと聞いたからさ。大分予想より早かったので驚いた。しかも滑走路無しでこんな街中で飛ばすとは思わなかったからね」
うわっ。
いつもと違いちょっと皮肉というかあきれたというか、そんな感情を感じさせる口調と台詞だ。
「申し訳ありません。冬合宿の勢いでつい出来てしまいまして」
「そういえばそういうノリで他の物も作っていたんだよな、ここは」
殿下はため息をつく。
「まあ僕が飛行機を作って欲しいと言ったようなものだけれどね。もう出来たとは思わなかったな。ところであの飛行機、今から準備したら今日中にまた飛べるかい。出来れば乗ってみたい。後ろでいいからさ」
「駄目ですよ」
ターカノさんに止められた。
「まだ蒸気自動車でさえ一般公開していないのに、人が乗って自由に空を飛ぶ機械なんて目立ちすぎます。当分ここで試験飛行するのも控えて下さい」
うん、言われてみればもっともだ。
「すみません。つい実際に飛べるという事で夢中になってしまいまして」
「気持ちはわかりますけれどね。ただここがこれ以上目立つのは避けたいところです。もうすぐニ・ホの施設が出来ますので、これからは飛行機関係はそちらで扱ってください」
「昨年夏の事件もあったし、出来ればあまり目立たないで欲しい。そうでなくともここの学園にとんでもない技術者がいると知られている。ここウージナを預かっているミナ・ミクー公爵からも苦情が入った。他国からの怪しいのが増えて忙しくてたまらんそうだ。学園内はそれでも厳重な警戒と保秘体制がとられている。でも街中まではその体制が完全に取れる訳ではない」
どうも申し訳ありません。
そうとしか言いようがない。
「まあそんな訳でニ・ホの施設が出来るまで少し待ってくれ。あそこは滑走路の他に飛行機が入る大型の倉庫や原油精錬施設、金属精錬施設も準備しているんだ。軍扱いの施設だから警戒態勢についても問題ない。1月半ばまでには滑走路以外はある程度使えるようにするからさ。滑走路もこの飛行機が飛べる位には整備するから」
「そんなに早く整備できるんですか」
確か2月と聞いたような気がする。
「僕らも飛行機を早く完成させたいしね。これ以外の大型を含めてさ」
殿下はそう言って、そして続ける。
「出来れば飛行機で各国との連絡網を作りたいんだ。制海権さえ押さえておけば陸地から遠くを飛ぶ分には魔法等で襲われる可能性もほぼ無いからね。自由に人が行き来できて、大型船で物も行き来できる。そうすればきっとまた未来が変わってくると思うんだ」
「飛行機の設計図も出来ればお借りしたいと思っています。勿論権利侵害等をするつもりはありません。ただ正直急げる処は急ぎたいのです。ですので今回の飛行成功に乗じてという感じもしますけれど、力を貸して欲しいのです」
ならばいいか。
「シモンさん、キーンさん。設計図、基になる2枚とも渡していいかな」
「僕はいいと思うよ。キーンさんは」
「私もいいと思います」
なら決定だ。
俺は魔道具で俺の机の引き出しから設計図を3組取り出す。
4人乗り小型飛行機のものと16人と貨物が乗る大型飛行機のもの。
そしてその2種の飛行機用のエンジンの設計図だ。
なお超小型の方の設計図は存在しない。
機体もエンジンもほぼシモンさんのフィーリングとキーンさんの魔法で出来てしまったようなものだから。
「まだ実際に作って最適化する必要があると思います。でもこれが作ろうとしている飛行機の設計図です」
「すみません。確かにお借りいたします」
ターカノさんは設計図3組を受け取る。
「でもこれは
「
「わかりました。それではこの設計図と完成品のこの機体をお預かりいたします」
「何か手に入れたばかりのおもちゃを取り上げるようで申し訳ないね」
まあそうだけれどさ。
あとちょっと疑問に思ったことがあるので聞いてみる。
「それにしても随分早く気付かれましたね、飛行機の件に」
「この学園で連絡担当をしている理事が焦った声で伝達魔法を寄越したんだよ。あんな物まで開発させているのですかってさ。彼も学園祭であの模型飛行機が飛ぶのを見た筈なんだけれどね。まさかそれほど経たないうちに人が乗ったものまで飛ぶとは思ってもいなかったらしい」
ちょっとそれは申し訳ないことをしたかな。
「それでは今日は急だったんでね。これで失礼するとしよう」
「確かにお預かりしました。それではまた」
3人と共に飛行機も消える。
相変わらず見事な移動魔法だ。
「それにしても、こうなるならあの飛行機、やっぱり乗っておけばよかった」
「でもニ・ホの施設が出来ればまた乗れるのでしょう。ひと月の辛抱ですわ」
「そうそう。あと私も含めてもう少し世間の目や常識を気にした方がいいかもしれませんね」
「確かにそうですね。私ももうここに慣れてしまったようです」
うんうん、確かに。
そう言うと『お前が言うな』と言われそうだから何も言わないけれど。
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