第267話 軽量飛行機試運転

 その結果。

 温泉別荘から帰ってきても話は終わらない。

 昨日合宿から帰って本日はまだウージナ2日目。

 でも別荘でエンジンやら部品やら作っていたので早くも試作品が出来てしまった。

 なおこれらの物品は

  ① トラックに積んで

  ② ウージナ市外の適当に目立たないところへ移動し

  ③ その後トラックを運転して搬入

という手順で運んだ。

 燃料や材料に使った原油も同様だ。

 直接学校内に入れないから面倒だが仕方ない。


 超小型飛行機はちょっとずんぐりむっくりした形。

 プロペラは可変ピッチの3翼タイプで他の機構もほぼ設計済み小型飛行機に準じている。

 試験用で航続距離こそ短いが本格的に人が乗ることが出来る飛行機だ。


 全長3.4腕6.8m、全幅4.59m

 高翼単葉で250馬力を発揮するターボプロップエンジン単発。

 骨格はジュラルミン製。

 外殻等は原油からタカモさんが製造した怪しいプラスチックとガラス繊維を使ったFRPもどきだ。

 乗員は前1人後ろ1人。

 操縦は前席の操縦桿で行うが、離陸と着陸は基本的に記述魔法によるオート。

 無理な操縦で落ちないよう記述魔法で何重にも安全飛行の制限をかけた。

 更に安全を確保するために緊急脱出用移動魔法杖まで仕込んである。

 これが起動すると機体ごと移動魔法がかかり速度0の状態で学校直近の丘の上に移動する仕組み。


 設計と制作は主にシモンさんとキーンさんで、俺は記述魔法による自動操縦と安全対策を中心に行った。

 基本は大型機や小型機の設計で出来ていたから手間はそこまでかかっていない。

 材料が足りなくなって大型模型飛行機は分解したけれど。

 あと燃料運搬用に緑のトラックも学内に持ち込んでいる。

 燃料になる部分以外もタカモさんがプラスチックを作ったりしたので無駄にはなっていない。

 プラスチックとかジュラルミンといった素材がタカモさん以外作れないのが問題だけれども。

 なのでタカモさん専用魔法アンテナは重要部分を禁断の魔法銀ミスリル仕様に作り替えた。

 フールイ先輩専用空間魔法アンテナに引き続き2つめの豪華仕様だ。


 さて、校庭は既に工作魔法杖できっちり平らに仕上げてある。

 長さは80腕160mしか無いけれど、計算では50腕以下で離着陸可能な筈だ。

 

 最初の乗員はシモンさんとキーンさん。

 作るのに一番かかわったという以外に、2人とも小柄軽量だという理由もある。

 最初の飛行だから出来るだけ万全を期したい。

 シンハ君に引っ張って貰って飛行機は校庭の一番向こう側へ。

 緊張した面持ちのシモンさんとキーンさんが乗り組む。

「ブレーキOK。エンジン始動するよ」

 この辺のエンジン始動関係も記述魔法でしっかり記載してある。

 だから乗員がやることはレバーを引くだけ。

 プロペラが回転を始める。

 やがて安定してクォーという音になった。


「それじゃ行ってきます」

 ブレーキが解除されるとともにエンジン音が上昇し飛行機は一気に加速する。

 高鳴るエンジン音があっという間に過ぎ去りドップラー効果を実感させて。

 見る間に飛行機は離陸して上昇していった。

 離陸成功。

 ここまで色々あったけれど飛び立つのはあっという間だ。

 そして飛行機は既に視界の遥か先で点になりつつある。


「飛行は順調、海まで出た後、一通り試験してターンして戻ってくるそうです」

 ナカさんが伝達魔法で来た情報を教えてくれた。

 俺も実際の目では様子は見えないが魔道具で飛行状況は確認している。

 既に海上まで出て更に高度を上げている。

 機体そのものにも問題は無さそう。

 今の速度はだいたい時速120腕240km位。

 まだまだ機体もエンジンも余裕がある。

 でも機体に対してエンジンがちょっと強力かな。

 滑走距離を短縮するためにそうしたのだけれど。

 主翼を大きくしたのもフラップを大きくしたのも同じ理由だ。

 何せ50腕100mで離陸するという仕様だから。


「上昇高度、最高速、いずれも問題ないそうです。これから旋回して戻ってくるそうです」

 時速150腕300kmから速度を落とし、ゆっくり旋回しながら高度を下げる。

 操縦性も問題なさそうだ。

 きれいな8の字を描いて旋回している。

 そして高度100腕200mまで落として機首をこちらに向けた。

 あとは自動操縦で着陸だ。

 滑走路手前に研究院の建物があるが大丈夫な筈だ。


 魔道具で確認する飛行機は速度と高度を落としつつ近づいてくる。

 そして研究院の屋根をかすめるように現れた。

 エンジンの高音はそのままにすっと滑走路に降りる。

 そして急激に速度を落とし、離陸より遥かに短い距離で停止した。

 扉から2人が降りてくる。

「最高! 自分で飛んでいる気分になるよ」

「面白かったです。飛ぶときと降りるときにかかる力が凄かったです」

 成功だ。


「ねえ次、次私も乗りたい」

「駄目。これから異常が無いか各部を確認するから」

 そして気球の時と同じように研究院から出てくる人々。

 冬休みの最中なのにご苦労な事だ。

 俺もあまりその辺言えた義理は無いけれどさ。

 でもまあこれで俺のノルマは半分以上達成したかな。

 人が乗れる飛行機を作るというノルマとプレッシャーは。

 

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