第266話 踊る阿呆に見る阿呆
どれくらい模型が大きすぎるかを説明しよう。
元になる大型機は全長
ついでに言うと全高が
これを模型エンジンの大きさが実機の5分の1程度だからというので5分の1縮尺で作り始めてしまったのである。
いや、ちょっと考えればわかることだ。
でも俺やシモンさんは設計に疲れ、実物を作るのに飢えていた。
なので勢いでつい作り始めてしまった。
そんな訳で気が付くと工作室のほぼ半分以上。
ボート停泊領域まで迫りそうな主翼とかを作ってしまっていた。
「いまさらなんだけれど、これってどうやって出そうか」
「移動魔法以外に方法は無いだろ。軍のトラックでも分解しないと載らないし」
大型機の方は分解可能な構造にはしていない。
この模型もだ。
「そっか、移動魔法で飛行場へ直接持っていけばいいんだよね」
それで納得するのがシモンさんの悪い処。
基本的に物を作るの優先で他はあまり考えない。
ただ俺も設計だけの日々に疲れていた。
実物を作る方がやっぱり遥かに楽しいのだ。
完成具合が目に見えるしさ。
今まで持っていたジュラルミン系素材や耐熱金属はオマーチの研究室から直接魔法で持ってきてもらった。
そして材料と大型魔法アンテナがあれば。
本気のシモンさんは設計図のあるものなんて簡単に錬成できる。
大型魔法アンテナと模型飛行機で既に下の工作室はめいっぱいだけれど。
結果、出来てしまった。
油圧で動く内部のワイヤーまで完全に設計図をそのまま実物に落とした代物が。
「模型として飛ばすにはもう少し翼を膨らませた方がいいと思います。でも縮尺模型としてならこれで完成です」
キーンさんのお墨付きももらった。
しかし、だ。
「飛行場はまだできていないんだよね。どうするのよこれ」
ミド・リー様から当然のお叱りをうけてしまった。
確かに飛行場はまだ完成していない筈だ。
2月くらいと聞いていたし。
底面積としてはシモンさんの大型工作用魔法アンテナと同等程度。
でも魔法アンテナは所詮棒の組み合わせなので隙間も大きい。
設置しても人が通るのくらい簡単だ。
一方これは……まあ、でかい。
日本風に言うと8畳以上の場所をとっている。
でもうちの研究室を整理すれば何とか入るとは思う。
シモンさんとフールイ先輩が広げている大型魔法アンテナ。
あれを少し詰めれば何とか入る筈だ。
「確かにこれ、大きいよな。跨れば人が乗れるんじゃないか、もう」
あっ。
不用意な台詞をヨーコ先輩が口にしてしまった。
きらりと光るシモンさんの目。
「そうだよね、模型じゃ面白くないよね。どうせなら乗って飛ぶくらいでないと。それも飛行場がいらない位の短距離、校庭で飛べる位なら面白いよね、よし」
ちょい待ったシモンさん!
「もう合宿は残り3日だぞ。その期間で作るのか?」
「3日なら乗って帰ればちょうどいいよね。でも折りたたんで持って帰って、ウージナで改めて初飛行してもいいかな。機構はどうせそんなに変わらないし、エンジンは単発で胴体を少し大きくして人が乗る場所を作ってやればいいよね。うん、これはなかなか楽しそうだと思うよ」
シモンさんは本気だ。
そして出来ないとは微塵も思っていない。
ああ、やばい。
俺も面白そうだと思い始めている。
これは危険だ……けれど。
「楽しそうですね」
キーンさんも乗ってきてしまった。
「主翼の長さは倍以上になるかな」
「魔法で計算すると、基本的にはこの倍の大きさになると思います。1人乗り程度としてですけれど。あと素材をもう少し軽量なものにしたいです。構造上問題ない壁部分等は極力薄くて軽い素材にする方が簡単です」
「熱気球に使ったあの繊維みたいなもので翼や壁を作ろうか。骨組みは軽量金属のパイプ構造で。エンジンは模型の2倍スケールで作れば大体出力もちょうどだと思うよ。手直しは無論必要だと思うけれど」
始まってしまった。
大きさ的に既にここの工作室で作れる範囲ではない。
でも主翼と本体を取り外せるようにすれば移動魔法で持ち帰れる程度にはなる。
出力が充分大きければ校庭でも離陸できるだろう。
最悪真っすぐで人通りの少ない馬車道を使って……
着陸は最悪ドラグシュート方式でやれば短距離で降りられる。
でも俺は小型機は4人乗りで作るつもりだったんだぞ。
何故こんなウルトラライトプレーンみたいなのを再設計する必要があるんだ。
でもどう考えてもこっちの方が俺達が遊ぶには面白そう。
何せ校庭でも飛ばせそうだし。
1人乗りという処が……ぎりぎり2人乗りにしてしまうか。
よし俺も諦めた。参加するぞ。
同じ阿保なら踊らなければ損だ。
「ぎりぎり2人乗り位にしていいか。多分全体的な大きさは1人乗りとほぼ同じで済む筈だ。その分翼面面積を増やして……」
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