第260話 移動日そして温泉別荘

 本日は移動日だ。

 ヌクシナからカナヤ・マーまではまっすぐ行っても暴走ボートで1時間程度。

 なので移動魔法は使わない。

 そして途中マキの街で大々的に買い出しをする。

 なおマキの街はニシーハラ侯爵領、つまりヨーコ先輩の領地の中心地。

 今回はニシーハラ侯爵宅の船着き場に蒸気ボートをつけ、全員でお買い物だ。


「服も革製品が多いんですね」

「酪農が盛んだし標高高めだからちょっと寒いしさ。服の他にバッグなんかも結構革製で安くていいのがあるぞ」

「本当なのだ。カーミヤと比べて安いのだ」

「でもお前はもうバッグ山ほどあるだろ」

「欲しいと思ったものは手に入れておかないと後で後悔するのだ」

 フルエさんとタカス君のやりとりはまあいつも通りだ。

 でもこういった街でのお買い物に慣れていないオマーチの3人もついふらふらとしてしまう訳で……


「オマーチではこういった革コートが必要な程寒い日はあまり無いのですけれど……いいですね、これ」

「あの革製の背負い式バッグ可愛いです。物も入りそうだしどうしようかな」

 ちなみに俺が見ると女子小学生用の赤いランドセルにしか見えないデザインだ。

 ここにも日本からの転生者がいたに違いない、きっと。

 そう思うのは俺の邪推なのだろうか。

「食べ物はチーズや牛肉が安い」

「酪農が盛んだからな」

「あのヨーグルトの屋台、美味しそう」

 甘いホットヨーグルト。

 最初はホットのヨーグルトなんてと思ったがなかなか美味しい。

 つい全員で買って飲みながら歩いたりする。

 ここの街はそこそこ寒いからこういう暖かい飲み物がまたいいのだ。


 結果的に色々ぐだぐだと買い物をして、持ちきれなくなったから移動魔法の応用でボートから荷車を取り寄せて乗せて運ぶ始末。

 ただ俺もクリームチーズ大量とか生クリームとか色々買いこんだからあまり人の事は言えない。

 いや単にバスク風焼きチーズケーキが食べたいなと思っただけなのだ。

 ウージナなら姉の店で予約しておけばいい。

 でも旅先では俺が材料を集めて作るしかないわけだ。

 それが14人分かける数回分となると材料が大量になるだけ。

 それだけなのだ。


 そんな重い荷物と14人を乗せると蒸気ボートはもうめいっぱい。

 元々は軍人20人でガシガシ漕いで進むタイプの高速連絡用ボート。

 後部スペースを石炭庫と蒸気機関にとられているがかなりの人と物が載る筈。

 ただそれ以上に今回の買い物が強烈だった。

 今は必要がない物は移動魔法でオマーチなりウージナなりに送ったけれど。

 なおユキ先輩が購入した『高品質で平滑な紙大量、上質なインク、ペン先各種』は必要な品として防水を厳密にしたうえで積載している。

 間違いなく別荘で作業というか漫画を描くつもりのようだ。


 マキからゆっくり行っても1時間程度で無事カナヤ・マの別荘に到着。

「ここも船が中まで入るんですね」

「便利だろ」

「この場所で色々工作が出来る訳ですか」

「そうそう、色々便利だよ」

「でもここの別荘はやっぱり温泉よ」

「どれどれ、見てみたいです」

 そんな訳でまず温泉へとご案内。

 ナカさんに全体に清拭魔法をかけてもらいお湯を入れ始める。

「ちょっと匂いが特殊なんですね、この温泉」

「そうそう。これがただの温水より温まるんだよ」

「早く入りたいです。どれくらいでお湯が貯まるんですか」

6半時間10分程度で大分たまるわよ。去年と同じなら」

「楽しみです」


 お湯が貯まるまでそれぞれの部屋へ荷物を運んだりする。

 俺はキッチンで早速クリームチーズと生クリーム、甘い水飴と卵、ちょっとだけ小麦粉を混ぜる。

 あとは焼くだけ。

 全体を加熱するとともに上表面を黒こげになる程度に焼くのがポイントだ。

 あとは冷やして落ち着いたら食べればいい。

 ちなみに直径10指20cm厚さ3指6cm位の大きさのものを7個焼いた。

 つまり一人半分ずつの計算だ。

 これくらいは作っておかないと無くなるからな。

 足りない事はあっても多すぎるとは思わない。


 さて、皆さんは温泉へと消えたようだ。

 俺はあえて後を追わず下の工作室へ。

 俺用工作系魔法用アンテナを組み立てて、試作ターボプロップエンジンを据え付ける台を作る。

 試作品は小型だが20馬力程度は出る筈だ。

 だから念には念を入れてと。

 プロペラも試製可変ピッチタイプを取り付ける。

 燃料缶もセットし燃料パイプをつないでと。

 さあ試運転するぞ、そう思った時だ。


「ミタキ、何処にいるの」

 やばい、ミド・リーの声だ。

 移動魔法で隠れようか。

 一瞬そう思ったが実行に移せないまま見つかってしまう。

「こんな所にいたの。さあ、温泉に行くわよ」

 おい待ってくれ。

 あと水着のままこの工作室にくるんじゃない。


「温泉は後で入るからいいよ」

「駄目。せっかく皆入っているんだしね。それに健康にもいいと思うわよ。あと美味しそうなケーキも作ってあるじゃない。あれを温泉で食べると美味しいと思うよ」

 おいあのチーズケーキは夜にゆっくり食べるために……

「着替えるのが面倒ならそのままでも大丈夫でしょ。上も下も普段着だし」

 いやそういう理由じゃない。

 なんて色々説明しても無駄だろうなきっと。

「なら着替えて行くよ」

「じゃお風呂で待っているからね。あとケーキは先に持っていくわよ」

 ああ、愛しのバスク風焼きチーズケーキが。

 仕方ない。

 俺は着替えるために自分の個室に向かった。

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