第219話 明日は明日の風が吹く
「本当にここはびっくり箱です。予想外のものが色々飛び出てきます。ここへ来て良かったです」
ジゴゼンさんはそう言った後に俺の方を見る。
「さて最後は模型飛行機です。これについては何というか、正直私の今までの知識では手に余る代物なのですけれど。原理等については外でお聞きしました。ですから外では聞けなかった事について主にお伺い致します。
まずはあの燃料ですね。そもそもどうやって手にれた物なのでしょうか」
どうしようかな、ちょっと考える。
念の為に聞いておこう。
『ヨーコ先輩、領地のあの油田の事を話していいでしょうか』
ヨーコ先輩だけに対象を絞って伝達魔法で尋ねる。
『問題無い。あれはうちの領地だが使わないものだ』
ならいいだろう。
「原油と言って地面から出てくる油があります。その成分を温度で分けて取り出して使っています」
「原油というのは先程向こうの研究室に渡してくれと頼まれた、あの缶に入っている物ですか」
これはターカノさんだ。
「ええ。実際には粘つく石のようなものからガスまで出てくるのですけれど、そのうち主に液体の部分を取り出したのがその缶に入っているものです」
「ちょっと鑑定させて頂きます」
ジゴゼンさんがそう言って缶の方を見る。
「なるほど。燃える黒水とか腐り水と呼ばれるものですね。これはこの国の中でも数カ所出ている場所があります。匂いがするし引火しやすいことから普通は封じ込めてしまいます。場所によっては木材の防腐処理に使用したりもしていますけれど」
という事は他にも油田があるのか。
「これはニシーハラ侯爵領内から採取してきたものです。様々な使い方があると思いますが、今回は折角だからという事で派手なものを作ってみました」
「なるほど、この上なく派手ですね。少なくとも技術系の者に対しては」
ジゴゼンさんは頷いた。
「あとこの空飛ぶ機械本体についてですが、これについては熱に耐える金属を入手した後に色々お聞きした方がいいのでしょうね。先ほどの説明のとおりなら」
「ただ実用に値するものが出来るかどうかはあまり自信無いです。今回のものとは段違いに複雑になりますから」
「それでもいずれ完成させてしまいそうですけれどね」
そう言ってからジゴゼンさんは俺の方から前へと視線を戻す。
「さて、技術的な質問はここまでです。あとは措置関係ですね。
まず今回発表したものの知的権利関係については私の方でここの研究会名義で申請しておきます。具体的には飛行機械の原理、動力源、精製した燃料、燃料の温度による分別方法。それに幻灯機の原理、レンズ、望遠鏡、顕微鏡、自転車2種類、自動ドア、発熱ざぶとんですね。熱気球については昨年申請済み、他の便利道具については既に商品化して権利も申請済みの模様です。
後程権利利用についての書類をお送りいたしますのでその時に権利の公開や権利使用料等について決めて下さい。
蒸気機関一般と蒸気自動車に関する事についても後で書類をお渡しいたしますので確認の上返答願います。
私からはこんなところです」
「さて、時間も遅くなってしまったしこの辺で失礼するよ。どうせ祭りの期間内にまた来ると思うけれどね。向こうの研究会と連絡をとった結果等も連絡する必要があるからね」
殿下の台詞で4人とも立ち上がる。
「それでは本日もお時間を取らせてしまい申し訳ありませんでした。それでは失礼します」
ターカノさんの台詞で全員が姿を消す。
◇◇◇
あの後すぐ研究会は解散した。
何せもう5時近い。
この季節だともう辺りは暗くなっている。
「今回は結構細かかったね」
「技術担当がいたからだろ」
いつも通りミド・リー、シンハ君と一緒に帰る。
「それにしてもついにアレを出すのか。いくらになるかな」
「色々使えるしね。杖以上じゃない」
今回のアレとは蒸気機関と蒸気自動車の事だ。
「でも以前はアレとか杖について、今は公開するべきでは無いって言っていたよな」
「最初は軍管理って言っていたじゃない」
「そういえばそうだった」
最初は軍管理で、その後は運送会社等に貸与する等の形で使用開始か。
本当は早く公開した方が物流その他の改善が早いだろう。
でも現在営業している運送業者等の事を考えると今回の措置が最善かもしれない。
俺達にとって色々面倒が無いという事も含めて。
「それにしても明日はここまで忙しくはないよな、きっと」
シンハ君言ってはいけない。
それはフラグだ。
「どうかしら。絵が動くのも熱気球も大人気だしね。学生生徒に先生は来るだろうし、今日も結構諦めていた人が多いしね」
「明日の事は明日考えよう」
どうせ思い通りにはならないのだ。
きっと。
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