第208話 発見

 三輪車の方は誰でも気軽に乗ることが出来る。

 思ったより軽快だし普通に便利だ。

 差が出たのがMTB風二輪車の方。

 真っ先に乗れるようになったのはフルエさん。

 あとはミド・リー、シモンさん、ヨーコ先輩、シンハ君。

 他は遠慮したりサイズ的に無理だったり運動神経的に……

 ちなみに俺は直線なら乗れるけれど曲がれないし止まれない。

 数回乗って諦めた。

「これは楽しいのだ。私専用も欲しいのだ」

「そうね。これがあったら近くまで行くときに便利よね」

猪魔獣オツコトの革がまだ残っているしあと2台位は作ろうか」

 元々は自動車2号を作るためだった筈の猪魔獣オツコトの革。

 でもシモンさんが方針を変えたので在庫があるようだ。


「外で試運転するものはこれで一通り出来ましたね」

「どれもなかなか楽しいのだ。気球も飛行機も自転車も良かったのだ」

「自転車はもう2台作るからそれは専用に乗っていいよ」

「なら早速研究室まで乗って行くのだ」

 やれやれという感じでタカス君が後を追っていく。

 彼は背が高すぎて自転車に乗るのに少々無理があった。

 なので追って行くときも駆け足だ。

 まあ彼も身体強化組並みの体力を持っているから問題無いだろう……あれ?

「フルエさんって確か速度特化型の身体強化持ちですよね。それがあの自転車を本気で乗ったら相当危ないんじゃないですか」

「自動車以上に速度が出ますよね、きっと」

「一応ブレーキは自動車と同じ形式だけれど軽いからね。止まれないかも」

「まあタカス君が何とかするでしょう」

 最後のユキ先輩の台詞に全員が頷いた。

 俺も思わず頷いてしまったがいいのかそんな結論で。

 頑張れタカス君、負けるなタカス君。


 研究室に戻って取りあえずはお茶の時間だ。

 今はシンハ君領地の砂糖工場で麦芽糖だけでなくブドウ糖や果糖も作られている。

 麦芽糖より甘みが強いのでお菓子も甘みが強い物が色々出てきた。

 以前のふんわり甘い派と今のしっかり甘い派でそれぞれ派閥もできつつある模様。

 ちなみに姉の店では両方作っている。

 そして本日のデザートはしっかり甘いクリームを使ったショートケーキだ。

「行く度に新作が出ているから全部制覇が出来ないのだ」

 そんな文句を言いつつ美味しそうに食べているフルエさん。

 とりあえず今回は交通事故を起こさないで済んだようだ。


「これで学園祭の準備も完了かな。あとは晴れて風が無ければいいのだけれど」

「まだ私達で作っているものがあります。もう少しで完成ですわ」

「取りあえず熱気球をバンバン飛ばすのだ。楽しみなのだ」

「いずれあの飛行機も大型化して乗れるようにしたいですね」

「でも最初はせいぜい2人から4人乗りくらいかな。それに本気で飛ばすなら飛行機のための施設を色々作らないと」

「校庭を借り切るのは成功したんですよね」

「他に校庭で発表する研究会は無いから問題無かったです。初等部から高等部までの共用グラウンド全体を全日程で押さえてあります」

「また殿下とか偉い人が来るのかな」

「今度は殿下だけで済むと思いますわ。前回はミタキ君の知識がどこから来たかという件がありましたから」

「だといいけれどね」

 例によってケーキはあっという間に無くなる。


 あとは昼まで各自の研究や授業の予習復習等だ。

 俺は一度飛行した模型飛行機の点検を開始。

 エンジン部分が一部熱で劣化し、翼の付け根部分がエンジンの振動でやはり劣化している。

 パルスジェットだからある程度振動はやむを得ない。

 でも人間が乗る為にはこのエンジンのままではまずいよな。

 ターボファンか、出来ればターボプロップエンジンを作りたいところだ。

 でもそうするとタービンが熱でやられそう。

 何せ使える耐熱素材がほとんど無いのだ。

 タングステン辺りがあれば楽なのだろうけれど。

 炭素で高強度に作る技術なんてのも俺には無い。

 セラミックで作ると重くてもろくなりそうだし。

 空燃比等で比較的低温になるよう調整するしか無いだろう。


 そんな事を考えていた時だ。

「いた」

 そんな小さな声が聞こえたような気がした。

 俺は顔を上げる。

 今の声は場所的にフールイ先輩だ。

 俺が一番近くにいるせいか他に気づいた人はいない模様。

 先輩が『いた』という事は辿り着けたのだろうか。

 6年前、お父さんがいなくなった過去に。

 それともまた別の何かがあるのだろうか。

 気づかれないよう横目で観察する。

 うん、特に……いや。

 杖を握っていない左手が震えている。

 小さく、でも間違いなく。

 

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