第199話 原油の利用法

 学校前にかかっている橋の下。

 見てみると確かにちょうどいい場所だった。

 特に研究院の前にかかっている橋は幅があるから隠れる場所も広い。

 橋がかかっているモトヤス運河はあまり船が通らないし。

 階段があるから道に出るのも簡単だ。

 無事移動して研究室へと歩いて戻る。

 繰り返しになるけれどやっぱりヨーコ先輩がいて助かった。

 この重い原油入りの缶を俺が持ち歩くかと思うとぞっとする。

 身体強化をかけた状態でも筋肉痛になりそうだ。


「この中に入っているの。でもどんな感じ?」

「基本的には黒い油と少量の水が混ざった状態だな。あとガスも冷却して液体化して入っているから不用意に開けないでくれよ。飛び出てくる」


 今回は浅い部分から取ったせいかガス成分がかなり多めだ。

 俺の魔法で液化できないガスは逃がしたから、今入っているのはプロパン以上重いものだけ。

 あと浅い部分だからかあまり重い油成分も無い。


「どうだ、使えそうか」

「使えそうという意味では文句無いです。ただどう使おうかちょっと考えています」

 自動車や船は何処の街でも補給できる石炭の方が現状では便利だ。

 でも重い油成分を分離したら今までの潤滑油やグリスより性能がいい物が簡単に作れる。

 今までの石炭から作る方法はかなり面倒というか魔力を使ったから。

 あとは軽油以下の部分。これをどう使おうか。

 どうせなら面白い事に使いたい。

 後で分留方法を考えよう。

 魔法熱源で量産しない事前提ならそんなに難しい構造は必要ない。


「取りあえずこの中に含まれている成分をある程度分けて、それからですね」

「残念、今すぐ使えないの」

「まあね。あとこれを使った面白い物もこれから考える段階だし」

 どうせなら石炭ではなく石油やガスでないと出来ないものを作りたい。

 真っ先に思い浮かぶのが内燃機関。

 でも燃料が一カ所からしか採取できないなら作っても不便だろう。

 蒸気機関の方が燃料を選ばない分使いやすそうだ、

 高分子化学系統は詳しくないのでプラスチックを作るなんてのも無理。

 だから他に出来る事と言えば……


「あとは学園祭での展示物も考えないといけませんね。熱気球は面白いですけれど出来れば他に目新しいものを出したいですし」

 そういえばそんな物も考えないといけないな。

「気球の他に空を飛べる物が出来れば面白いよね」

 でも飛行船はヘリウムがないと巨大になるか爆発するかだからなあ。

 飛行機はエンジンが無いし……そうか。

 実用には少し遠いかもしれない。

 でも俺の知識と工作系魔法である程度作れるものを思い出した。


「空飛ぶ機械、模型段階までなら作れるかもしれない」

「えっ。どうやるの。魔法か何かを使うのかな」

「いや、この油を燃料にした新型の機関を使う」

 そう、エンジンだ。

 それもジェットエンジン。

 勿論本格的な飛行機に使われていたような複雑なエンジンは今の俺では作れない。

 でも第二次世界大戦でドイツがV1号用に使った原始的なパルスジェット。

 あれなら構造が簡単だから作れる可能性がある。

 しかも俺達は魔法を使えるから始動用に特別な機械を必要としたりもしない。

 最初に内部に燃料を気化させ、魔法で加熱してやればいい。


「面白そうですわね。でもそれは人が乗ったりできないのでしょうか」

「今の時点でそこまでの知識は無いんです。そもそも動力部分も作れるかどうかわからない。でも折角液体の燃料が手に入ったのですからやってみる価値はあります」

 うまくいけばモーターグライダー程度の飛行機も作れるかもしれない。

 上昇はパルスジェットで行い、あとは滑空して戻ってくるような。

 ただ本物は飛行場も必要だろうし燃料も大量に精製する必要がある。

 まずは模型からだ。


 今の俺にたいした知識は無い。

 パルスジェットエンジンの簡単な知識と飛行機の外形程度の知識だけだ。

 材料も現代日本のように豊富では無い。

 でもこの世界には魔法がある。

 鑑定魔法と工作系魔法を駆使すれば結構いい線まで行ける筈だ。

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