第192話 やっぱり迷惑なこの御方

 殿下は肩をすくめ苦笑いをする。

「あーあ、君達にまでそう言われちゃったか。なら仕方ない、真面目にお仕事をするとしますか」

「だから言ったじゃないですか、殿下」

「うんうん、わかっていても確かめたい時ってあるよね。今がそうだったんだよ」

 何だターカノさんとのこの会話は。

 シャクさんも苦笑いなんて浮かべているし。


 我慢できなくなったので突っ込んでみる。

「ひょっとして俺達を試した訳ですか」

「試した訳じゃない。さっき言った事は事実だし本音だよ。だからこそ国民の国に対する支持をちょっと確認したくなる時もあってね」

 おいおいおいおい。

「僭越ながら言いますが、なかなか傍迷惑な御性格でいらっしゃいますね」

「うん、よく言われる」

 自覚ありかこいつは!


「イ・ノクチ殿下が優等生的過ぎて面白くないって言われていたらしいからね。僕はその逆で生きてみる事にした訳だ」

「皆様の迷惑だからやめて欲しいと常々言っているのですけれどね。自我も個性も充分過ぎるくらい自己主張していますから少しは大人しく優等生的にしてくれって」

 ターカノさんの台詞の背後でシャクさんが大きくため息をついた。

 ああ、何というか……

 いいのか行政最高責任者の一人のこんな舞台裏見せまくりで。

 ただでさえ俺の王族のイメージはハイパーデフレーション中なんだぞ。

 こいつ1人のおかげで。


「それでは改めて君達に依頼しよう。この魔法杖と魔法銀ミスリルを使って有用な魔法杖を作ってくれ。出来れば色々な種類の魔法杖があった方がいいな。ただ1本は必ずターカノの魔法杖を基にしたもので頼む。

 こちらに渡して貰うのは見本の1本ずつでいい。魔法銀ミスリルが足りない分は事務局経由で言ってくれれば提供する。報酬はあの大型魔法杖と同じ形式だ。1本ずつの成功報酬とこちらで製造した魔法杖の個数分の加算になる」


「具体的な内容はこの通りだ」

 シャクさんが封筒入りの書類を取り出す。

「具体的に言うと契約代金が大金貨1005000万円、杖1種類ごとに大金貨10500万円。新型杖を1個作るごとに小銀貨10枚10万円の割当金だ」


「金額には問題ないですけれど質問がありますわ」

 うん、アキナ先輩が言いたいことはもう想像がつく。

 俺も言いたい。

 多分皆さん同じだと思う。

「失礼ですけれどこの流れを最初から計算していたのでしょうか?」

「計算はしていないさ。でも可能性として一番高そうだから一応事前に全部準備しておいた」

 殿下は悪びれず平然とそう言い切る。


「君達はまだいい」

 シャクさんが珍しく口を開いた。

「私とターカノはこいつと学生時代からほぼ一緒に行動しているんだ。苦情も文句も大体こっちに来る。その苦労を察してくれ」

 ああああ、そうなのか。

 思わず同情してしまう。


「他人事ながらご愁傷様です」

 皆さん俺と同じ気分だろう。

 ただ張本人だけは胸を張ってこう言い切る。

「その分高い手当も出しているからな」

「会計部には『苦労手当』とか『胃痛手当』とか呼ばれています」

 なるほど。

 思わずうんうんと頷いてしまった。

 この性格は一部の人にとっては周知の事実らしい。

 色々納得。


 ◇◇◇


「何というか結局向こうの思い通りになっちゃったね」

 ミド・リーの台詞に俺は頷く。

「仕方無いさ。確かにこの国が住みやすいのは確かだ」

「実は教育が間違っていて、他の国はもっと進歩していて暮らしやすいかもしれませんよ」

「多分それは無い」

 これはタカス君だ。

「俺の記憶からもここの生活水準がかなり高い事がわかる。それに俺と逆に進歩している世界から来たミタキ先輩も不自由を感じていないようだ。ならおそらくここはこの世界でもかなり生活水準が高い筈だ」

「俺もそう思う」

 俺も頷く。

 だいたい元々そんな疑義を出したユキ先輩すら表情からどう考えているかわかる。

 間違いなくこの国は住みやすい場所だ。

 確かに政治体制はやや古めだけれど、効率を考えれば確かに正しい。


「なら向こうの注文通り作りますか、魔法杖。形は杖じゃ無いですけれど」

「そうだね」

「あと材料的に注文分を作ってもまだ余裕があると思うぞ。全員の移動魔法用の杖を作っても」

「それは楽しそうですね。危険でもありますけれど」

「それくらいの役得は無いとね、やっぱり」

 無論報酬は報酬でいただくのだけれどさ。

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