第193話 お仕事ついでに

 構造がわかっているものを作るのは難しくない。

 杖の長さを測りコンデンサーとコイルの容量を計算で求める。

 アンテナ部分の長さもそれに必要なコンデンサーやコイルも今までのものから計算で最適値がわかる。

 ただ俺自身は工作系魔法にシモンさん程慣れていない。

 だからその場で練成なんて出来ないが、それでも部品から一つ一つ作っていけば。

 お昼前に移動魔法用の杖というかウエストポーチが完成した。


 作成者の特権で早速テストしてみる。

 これは凄い!

 意識するだけで研究室の外、更に遠くが自由自在に知覚できる。

 何処まで知覚可能か試してみる。

 ウージナ市街地は余裕。

 最初に合宿したイーツクシマの別荘は隣接区画に工場が出来ていた。

 新しい水飴製造工場のようだ。

 ドバーシのアキナ先輩別宅も大丈夫。

 アージナの夕陽が見える別荘も何とか。


 北側はどうだ。

 カーミヤの博物館は余裕。

 ヌクシナの砦も何とか。

 カナヤ・マの別荘はわかるけれど大分しんどい。

 この辺が限界のようだ。

 オマーチは完全に無理だった。

 流石に本職のターカノさん達程の威力は無いようだ。

 あの人達は殿下を連れた状態で平気でオマーチからやってくるからな。


 それでは試しに移動してみるか。

 誰もいないのを確認してからとりあえず家の俺の部屋へ。

 軽い浮遊感の後、景色が見慣れた部屋に切り替わった。

 うん移動成功。

 それでは家の誰にも気づかれないうちに研究室に戻ろう。

 あれ、戻れない。研究室が見えない。

 少し考えて気がついた。

 研究院を含む学校は全体に移動魔法禁止の魔法陣が張ってある。

 出るのはともかく入るのはアウトという事だろう。

 仕方無い。研究院近辺の誰もいない場所へ移動して、と。

 研究院どころか学校全体に移動魔法禁止の魔法陣が張ってあるようだ。

 これはまずい。早く戻らないと皆が心配する……


『ミタキ君、どうしましたでしょうか。何処にいますか?』

 ナカさんから伝達魔法が入った。

 良かった。これで事情を説明できる。

『移動魔法の実験で自宅に移動しました。学校は移動魔法で入れないようになっているので、何処か近くへ移動して歩いて戻ります』

『わかりました』

 さて学校の近くで誰もいない場所は……

 何とか学校近くの路地に誰もいない場所を見つけた。

 こそこそ移動して、歩いて橋を渡って研究院側の門から入る。

 学校の中へ入ってしまえば安全圏だ。

 何せこの魔法杖、バレたら色々危険な代物だしな。

 用心するに越したことは無い。

 玄関から入って廊下を通って研究室へ。


「もうミタキ、実験で出るなら言ってよ!」

 ミド・リーに怒られた。

「ごめん。移動魔法用のこれ、出来たから実験してみたんだけれどさ。学校内は移動魔法禁止の魔法陣が張ってあるのを忘れてた。おかげで戻ってこれなくなった」

「なら移動は出来た訳ね。どれどれ、試してみたい!」

 まあそうだよな。

 でも、だ。


「どうせならシモンさんに全員分量産して貰うのを先にした方がいいんじゃないか。現物があればすぐだろ」

「そうだね。ついでに言うと殿下に出すもののうち電気魔法用、風魔法用、工作魔法用、万能魔法用の魔道具は作っておいたよ。大きい杖の現物をあの万能杖と同じようにまとめるだけだったからね。ただ他の魔法用はミタキ君に作って貰わないと無理かな。何か色々計算があるようだし」

 現物の見本がある万能魔法用はともかくだ。

 他は以前作った魔法アンテナから解析して作ってしまった訳か。

 何かシモンさんのチート度合いが更に増しているような気がする。

 もう歩く有用危険知識の宝庫みたいなものじゃないのだろうか。


「じゃあ俺が作るのは地魔法、爆発魔法、熱魔法、生物魔法用か。結構めんどいな」

「でもその前にご飯にしましょう。ちょうどお昼ですから」

 そうだった。

「今日のお昼は私とフールイさん担当ですわ」

 何かと思ったらピザだった。

 手軽だし美味しいしちょうどいい。

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