第159話 もうすぐ夏

「そろそろ夏合宿の計画を考えませんか」

 そんな話題の出る時期になった。

「夏と言えば海かな、それとも山かな」

「アージナはやめた方がいいですわ。この季節は暑すぎて滞在にむいていません」

 新人歓迎の時点で既に海遊び適温だったからな。

「涼しい方がいいのか」

「勿論過ごしやすい方がいいですわ」

「遠くても大丈夫なのか」

「あの蒸気自動車なら国内何処でも2日あれば行けるよね」

「休みが長い夏こそ遠くに行く絶好の機会ですわ」

 あ、フルエさんがにやーっとした。

 何か心当たりがあるらしい。


「タカス、あそこはどうなのだ。コイの別荘地」

 タカス君はちょっと顔をしかめる。

「確かに涼しいが遠い。魔獣もたまに出る」

 シモンさんが反応した。

「どんな魔獣が出るんだい」

「大分あの辺は整備されたのだ。もう魔獣は出ないと思うのだ」

「以前は鹿魔獣チデジカ猪魔獣オツコト猿魔獣ヒバゴンあたりが出た。他に小さいのはうじゃうじゃ。別荘内まで鼠魔獣ガンバが入り込んでいた」

「あれはタカスの便利魔法で一掃したのだ。それにもう開発済みだしいなくなったと思うのだ」


「タカス君は行った事があるのですね」

 アキナ先輩の台詞に彼は頷く。

「ええ。以前フルエの家族に招待されて」

 タカス君はフルエさんの家族とも仲がいい模様。

「景色は最高なのだ。あと湖で泳げるし滝や沢も気持ちいいのだ」

「どんな山荘でしょうか」

「作りは一般的な山荘なのだ。この前合宿で行ったアキナ先輩の別荘とほぼ同じ。個室も12室以上あるのでここの人数なら大丈夫なのだ」

「馬車道は続いていますの」

「1級規格の馬車道がある。ただ馬車だと控えの馬と1時間おきに交代だ。ずっと坂道だし俺やフルエだと走った方が速い」

 フルエさんは身体強化できるしタカス君も記述魔法で似たような事が出来る。

「バカンスシーズンは定期馬車が出ているのだ。換え馬もポイント毎に準備されているのだ。貸し馬もあるのだ」

 なかなか整備されているようだ。


「蒸気自動車なら問題無いよな」

 ヨーコ先輩も何か反応している。

「魔獣はどれくらい出るんだ?」

「以前も大きいのは別荘周辺には出なかった。開発地帯から離れた場所で餌をしかけておけば出るかな位。勿論未開発地域に狩りに行けばそこそこ出る」

猪魔獣オツコトの革がそろそろ欲しいんだよね」

「あれは肉も美味しかったな」

 この反応は間違いない。

 少なくともヨーコ先輩とシモンさんはやる気だ。


「でもコイってどの辺なんだ」

「地図で確認しましょう」

 ナカさんがどこからともなく地図を持ってくる。

 アストラム国全土を描いた大きなものだ。

「ここなのだ」

 フルエさんが指さしたのは国のまさに北。

 北部山地に貼り付いたような場所だ。

「一日で行くには辛そうだね」

 測ってみると350離700km近くある。


「でもそう言えば雑誌に載っていたな。確かアストラム最新お勧めスポットで」

 ヨーコ先輩は時々妙な雑誌を愛読している。

「うちの家が開発した一押しの場所なのだ。アストラム最新の人工観光都市なのだ」

「風景が綺麗で湖でも遊べる涼しい場所だ。それに近郊の有名店や評判のいい店を集めた商店街なんかも作ってある」

「楽しそうだよね」

「同意」

 皆さん乗り気になってきたようだ。

「何ならオマーチとかシンコ・イバシとか観光しながら行けばいいのですわ。その方が楽しいと思いますし」

「いいですね。行きは東海岸、帰りは西海岸なんて道を変えても面白そうです」

「確かに楽しそう」

「帰りに実家に顔見せに寄ってもいいのだ」

 決定だな、これは。


「予定は何日間にしましょうか」

「行き帰りに2日ずつ使うとして合計14日だね」

 休みの半分が合宿か。

 なかなか強烈だなそれは。

 予算的には全く心配無いけれど。

「なら7月2日から12日まで使えるように手紙を書いておくのだ」

「無理だったら別の場所にするから気にしなくていいぞ」

「問題無いのだ」


 さて、日程が決まっても課題が残っている。

「その日程だと期末試験で赤点を取ったらおいてけぼりだな」

 タカス君がそう宣告。

「大丈夫なのだ。何とかするのだ」

「俺も勉強やるからさ、何ならここで試験対策もするといい」

「私も付き合うぞ」

 身体強化組が一致団結した模様だ。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る