第147話 自動車改良

「なら早速車を改良しないとね」

 そう言って浴槽からシモンさんが出てくる。

「いまからやるのか」

「平日の放課後よりは時間があるよ」

 確かに現在時刻はまだ12時前。

 何せ朝一でお菓子を買ってきて食べて、一休み終了しただけだし。

 ただシモンさん、その格好でそのまま車の改良をやるのか。

 せめて上にTシャツ着てくれ。

 言えないけれど。


 2人でシモンさんの魔法杖を蒸気自動車のところまで運ぶ。

「さて、どう改良しようか。簡単なのは車体を伸ばして真ん中にもう一列席をつくる方法だけれど」

「それをやると小回りがきかなくなるな。出来れば前のタイヤと後ろのタイヤの間の長さ、今とあまり変えないようにしたい」

「だよね。角を曲がる時なんか大変だし」

「ステアリングのギアを前後逆にして軸を前にやるか。前は少し狭くなるけれど2人だったら問題無いし。ペダルの位置は大丈夫かな」

「問題無いと思うよ。あとは水タンクと冷却系を全部前に持って来て、後ろのボイラーももう少し小型にして低く配置しようかな。石炭庫も薄く幅広く高くして」


 シモンさんの作図能力は俺より遙かに上だ。

 手書きの概念図すら綺麗に線のゆがみも無く描く。

 色々図を描いては直し描いては直しした結果、運転席をより真ん中に近く動かし、助手席はやや足を上げる形に座らせる事で運転席の列を更に前方へ移動。

 結果前後の車軸間距離は前より少しだけ増えた270cmで抑えた。

 乗員は一番前に2人、そこから後ろは3人掛けが4列で最大14人乗り。

 流石にこの人数乗れれば問題無いだろう。

 これ以上人数を乗せるならもう一台作った方がいい。


「あとは外装だね」

 そこで俺は前から考えていた事を話す。

「前の窓は大型の1枚ガラスの方がいいと思う。ガラスを厚めにして外側を金属フレームで囲めば強度的には大丈夫だろ」

「うん、此処でなら大きい板ガラスも簡単だよ」

 それが出来るなら次のステップだ。

「それなら前側の窓の上部と屋根をくっつけたいんだ。そうすれば万が一雨が降っても走れるしさ。左右は雨が降ったら布をかぶせられるようにしておけば、取りあえず雨も吹き込まない。まああんまり雨が強ければ走らない方がいいだろうけれどさ」

 つまりはまあ、現代の普通の自動車に近づけようという訳だ。

 長期休み中ならいいが今回の日程は2泊3日。

 3日目に雨が降ってしまったら帰れませんでは困る。

 この季節は滅多に雨が降らないのだけれど念の為だ。


「ガラスに雨がついて前が見えにくくなったらどうする?」

「窓の外を拭く装置をつければいい。機構そのものは簡単さ。要は窓にバネを使ってある程度密着するような布付きの棒をつけて、それを左右に動かす感じで」

 ワイパーを図を描いて説明する。

「必要に応じて窓の上から石けん水が出るようにすれば、動きも悪くならないと思う。動力は蒸気でやってもいいけれどモーターの方が簡単かな。タービン発電機はどうせついているんだし」

 更に送風装置とか色々考えてつけてみる。

 更にどの列も横から乗るように変更。

 前後の座席移動は無しにしたのでその分座席も広くなった。

 なお簡単な扉も一応各席横についている。

 乗った後手動で閉めて金具でロックするだけだけれども。

 カーブを曲がった時の遠心力で落ちたりしたら困るから念の為だ。


 大体の事が決まったらシモンさんが最終デザインを描く。

 うん、大分俺の知っている自動車に近づいた。

 ミニ・モークを巨大化したような感じだ。

「こんな感じかな」

「そうだな」

「なら練成するよ」

「その前にガラスを作らないと」

「もう何度も作って作り方を理解したからね、このまま行けるよ」

 おいおい。

 そんなので出来るようになるのか工作系魔法!


 そんな訳で材料にガラスと炭酸ナトリウム、石灰石の粉を追加。

 ガラスは元々2階の窓についていた半透明のガラスだ。

 他には鉄と丸太が少々。

 この辺は俺の細腕では運べないのでシンハ君を召喚。

 あとはおなじみ強化魔法アンテナを使って一発作成だ。


「あ、何か格好良くなったね」

「何か家っぽい」

「新しい乗り物、という感じです」

 皆さんいつのまにか下りてきて色々確認している。

 俺としてはなかなかいい感じに仕上がったと思う。

 今までより大分車らしくなったし。

 ただ皆さん水着でうろうろするのはやめて欲しい。

 どこぞの世界のコンパニオンじゃないのだから。

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