第148話 新人? 入会希望者

 翌日、1の曜日の放課後。

 フルエさんを入れて3人になったトレーニング組が帰ってきたのでお茶の準備をしていた時だ。

「はい。何でしょうか」

 蒸気自動車の細部を色々いじっていたシモンさんのそんな台詞が聞こえた。

 何だろう。

 いつものシモンさんの口調と少し違うな。

 そう思いつつお茶セットを準備しているところで。

『入会希望者の方だって、どうする』

 シモンさんから伝達魔法が来た。

 なぬ、他にもいたのか。


『私が出ますわ』

 アキナ先輩が応える。

 おいおい追加かよ。

 まだパウンドケーキを切っていなくてよかった。

 そう思って気づく。

 いやそんな問題じゃ無い。

 蒸気自動車等の逆鑑定魔法は今現在解除されている

 早くかけ直さないと中に入れられない。


『逆鑑定魔法をかけ直します。少し時間を下さい』

 伝達魔法で一報して俺はキッチンから飛び出す。

 出しっぱなしの魔法アンテナ、蒸気ボート、蒸気自動車、汎用蒸気機関、発電機、モーター……

 とにかく目につくものに片っ端から逆鑑定魔法をかける。

 来訪者は扉越しにアキナ先輩が応対している模様。

 ちなみに廊下に繋がるいつもの扉ではない。

 蒸気自動車の向こう側、蒸気自動車を出し入れしたり荷物を入れたりする時に使う大扉だ。

 まさかこちらから来るなんて事は思っていなかった。

 でも考えてみれば方法論としては正しい。

 廊下側から来るなら通行許可証が必要だ。

 でもこっち側は学校内に入れる者なら誰でも来ることが出来る。


『ミタキさん、逆鑑定魔法は大丈夫ですか』

 アキナ先輩からの伝達魔法が来た。

『ひととおりかけました。大丈夫です』

『では中に入っていただきますわ。皆さんも会議室へお願いします。ナカさん、お茶セットをお願いしますね。お客様は1名です』

 俺も魔法のかけ忘れが無いか確認してから会議室へ。


 ◇◇◇


 今回の入会希望者は女子1名。

 身長はヨーコ先輩よりやや高いがタカス君よりは低い。

 黒い短髪、細身の身体。

 細身で背が高いところはタカス君と同じだが身に纏っている雰囲気がまるで違う。

 タカス君はもじゃもじゃの髪もあって何処かぬぼーっとした感じ。

 この彼女は隙が無さそうな感じだ。

 それ以外にも全体として大人っぽい雰囲気。

 恐らく中等部ではなく高等部の学生だろう。

 そして何処かアキナ先輩に似ている。

 身長はもっと高いし細いけれど、髪は短いが色は同じ漆黒。

 雰囲気も違うようでいて何処となく似ているのだ。


「裏口からお邪魔して失礼致しました。高等部1年1組のユキ・ワダ・サーエキと申します。アキナさんと同じクラスです」

 やはり高等部の学生だったか。

 そして恐らく、いや間違いなく大貴族かその縁戚。

 サーエキ家はこの国の西岸に領地を持つ辺境伯家の名字だ。


「ユキさん。申し訳ないのですがまだ入会出来るか決まったわけではないのですけれども」

 アキナ先輩の台詞に彼女は頷く。

「ここに入会するには審査が必要なのですよね。聞いております。

 あと本来なら通行証を入手して正規の入口からノックしてお伺いするのが正しいのでしょう。ただ事務局の方では『直接活動場所へ出向いて交渉して下さい』との事だったので、許可証無しでも入れるかどうか試してみました。念の為許可証も用意しましたけれど」

 そう言って彼女、ユキ先輩はバッグから何かを取り出す。

 見ると確かに許可証だった。

 でもそうだとすると許可証があるのにもかかわらず、わざわざ許可証無しで出来るかどうか試してみた訳か。

 うん、漂う曲者臭。


「私が事務局にここの事を問い合わせたのはつい先程です。ですので審査結果は4の曜日頃には出ると思います。入会出来るかどうかわかるのはその時ですね」

「そこまでご存じなら、この研究会の詳細は説明しなくても大丈夫でしょうね」

「審査が終わってから聞きます。その方が楽しそうですから」

 うん、この人はきっとアキナ先輩以上に要注意な人だ。

 そんな事をひしひしと感じる。


「それにしても思った以上に楽しそうな場所ですね。ちょっと見ただけでこの国の風景に無い物が色々あって。ここなら気兼ねなく色々な事が出来そうです」

 一瞬ぎくっとする。

 この国の風景に無い物。

 遠回しな言い方だが俺達にはその意味がわかる。

 勿論逆鑑定魔法で事物の詳細等については理解できないようになっている。

 ただ視覚隠蔽は間に合わなかったし今回来たのは裏口から。

 なので蒸気自動車やボートがどうしても視界に入ってしまう。


「ユキさん、ひとつおうかがいして宜しいですか」

「ええ、答えられることでしたら」

 アキナ先輩はユキ先輩の方を見る。

「貴方はここに何を求めているのでしょうか?」

 ユキ先輩は小さく頷いて口を開く。

避難所アジール、もしくは外套です。異端者でも身に纏えば暖めてくれるような異端者の外套。そういう答えでどうでしょうか」

 アキナ先輩は小さくため息をつく。

「寒いなら世界を暖めてしまえばいい。貴方もそうではなかったのですか」

「同じ気温を暑く感じる人もいれば寒く感じる人もおります。ですから私は外套が欲しいのです」

 お互い表現が高踏過ぎて俺にはわからない。

 でも何か2人の間では今のそれぞれの台詞に色々な意味があるのだろう。

 

 アキナ先輩は頷く。

「認知は出来ましたわ」

「理解とは言ってくれないんですね」

「ですから認知です。ただ歓迎はいたしますわ」

「ありがとうございます。それでは最初のご挨拶はこの辺で」

 ユキ先輩は立ち上がる。

「お茶とお菓子、ごちそうさまでした」

「もう少しゆっくりしていらしたらいかがですか」

「今日の処はこの辺で。次は調査結果が来た頃に致しましょう」

 そう言って彼女は一礼する。

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