第142話 新人歓迎会予定

 ふと俺は思いついた。

「タカス君、この魔法で以前の世界では魔法杖とかは使うのか?」

「俺自身は使った事は無いです。でも医療や産業で大きな魔力を使う場合には使っていました。杖に魔法を記載したカードを挟んで掲げる形で」

 よし、杖は使えるようだ。

 なら杖を作って長さを測ってあの誰でも電撃魔法アンテナと同じように作れば。

 カード次第でどんな魔法でも使える魔法杖が出来る。

 恐ろしや万能杖への道が一気に拓けてしまったぞ。


「その杖の長さは大体でいいから憶えてるか?」

「俺自身は使った事は無いからちょっと。でも確か下についたときに腰くらいの高さだったと思いますが……」

 他の魔法の魔法杖とそう変わらない長さという事か。

 ならシモンさんに長さを測って作って貰って、その長さからコンデンサーとコイルの必要容量を確認すれば……


「ミタキ、初日からがっつかない! タカス君が引いちゃっているでしょ」

 あっしまった。

 ついつい万能杖への希望で色々がっついてしまったかもしれない。

「いえ、別に引いてはいないですけれど。でも何故杖の話なんですか」

「ミタキ君は魔法杖の開発をやっているんだ。誰でも自分の持ち魔法以外の魔法が使える魔法杖の研究をね」

 シモンさんが説明してくれる。

「それって可能なんですか。確かに生活魔法レベルならこの世界では色々な魔法を憶えることが出来ますけれど」

「既に風魔法版の試作品は作ったよ。誰でも風の攻撃魔法が使える杖で……」


「はいはいシモンさんもそこまでです」

 今度はナカさんに止められてしまった。

「せっかくフルエさんとタカス君が来てくれたんだから、今日は説明と歓迎が普通でしょ。ミタキ君もシモンさんも開発モードは後です」

「そうだ、まずは新人歓迎をしないとな」

 まあそうだけれども、そう言われてもな。

「具体的には新人歓迎でどんな事をするんですか?」

 錬金術研究会にはそんなものは無かったよな。


「剣術研究会ならトーナメント戦方式の模擬試合だよな」

 おいシンハ君、それはやめてくれ。

「ここで模擬試合をしても形になるのはヨーコ先輩とシンハだけだと思うわよ」

「でもそれは是非お願いしたいのだ。ヨーコ殿とは是非やってみたいのだ」

 おいフルエさん君もそっち側かよ。

 でもそう言えば速度特化の身体強化と風魔法持ちの剣士だったっけ。

 ヨーコ先輩が言っていたよな。


「それでは他の人が大変なので別の事にしましょう」

「なら明日にでもミタキ君のお姉さんの店に行って、勝手にケーキ食べ放題は?」

 おいミド・リー、何という事を提案するのだ。

「いいなそれ」

「悪くないです」

「妥当なところですわ」

「賛成」

 ほらほらこうなってしまった。


「やめてくれ。只でさえあそこは席が取りにくいんだ。身内で占拠したら姉貴に怒られてしまう」

 プラスしてその後、散々からかわれるオチがつくのだ。

 俺としてはなんとしても反対したい。

「なら以前と同じように、一人小銀貨2枚2000円ずつ持って買い出しに行って、ここで食べればいいのではないでしょうか」

「さっき食べた以外にもあるのか」

「種類はいっぱいあるよ。食べきれない位にね」

 おいおいおい。

 でもまあ、この面子で並んで席を占拠するよりましか。

 何だかなと思うけれど。


「折角だから新人2人には予算倍にして自由に買ってもらえばいいんじゃないか。私達は合計大銀貨2枚で皆で相談して買うとして」

 おいおいヨーコ先輩。

 予算が増えているのは気のせいですか。

「でも俺は小遣いそんなに無いですが」

 タカス君はそういう心配をしているようだ。

「ご心配なく。この研究会での活動は一切私費はかかりません。それにこれくらいの諸費用なんて税金に比べたら……」

 ナカさんはそう言って頭をぶるぶる震わせる。

 まだ税金のトラウマが残っている模様だ。


「大丈夫ですか。此処を見るとただでさえ相当に開発費がかかっているように見えるのですが」

 タカス君は健全な財政観念の持ち主らしい。

「スポンサーがいるから心配ないよ」

「その辺は明日話しますね」

 シモンさんとナカさんの答えに彼は??? という感じ。

 うん、それがきっと普通だと思う。

 俺は密かにそう思いそして気づいた。

 つまり俺やシンハ君も普通ではなくなってしまった訳だな。

 間違いなく。

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