第140話 ここへ来た理由
アキナ先輩から自己紹介を開始。
次はフールイ先輩、そして俺。
そんな感じで俺達の側が自己紹介し終わったところで。
「悪い、汗かいていたんで遅くなった」
シンハ君とヨーコ先輩が戻ってきた。
ヨーコ先輩は銀髪女子の方を見て不思議そうな表情をする。
「あれフルエ。どうしたんだこんな処に」
「今日はここグループ研究実践にお世話になりに来たところなのだ」
少なくともヨーコ先輩と銀髪女子は知り合いのようだ。
「今はこちらの自己紹介が一通り終わったところです。ヨーコさんとシンハ君、続いて自己紹介をお願いして宜しいでしょうか」
「わかった」
ヨーコ先輩は自分の席に座ってすぐ自己紹介を始める。
「ヨーコ・カワ・ニシーハラ、3年生だ。ここでの担当は主に力仕事と風魔法関連かな。どうぞよろしく」
「シンハ・クシーマ・カーケ。2年生。基本的には力仕事専門だな。よろしく」
あっさり紹介を終えていよいよ新人2人の番になる。
まずは銀髪女子の方が口を開いた。
「フルエ・シンマーチ・ニシーク、1年2組なのです。よろしくお願いなのです」
名字から貴族だという事もわかる。
子爵以上の貴族の名前は領地の名前として地理で教わるからな。
でもニシーク家の領地が何処かは思い出せない。
試験に出るのは伯爵領までだし。
少なくとも南部ではない事は確かだけれど。
「タカス・コーゴキタ、1年2組。以後よろしくお願いします」
長身男子の方もそれだけ。
まあ所有魔法とかは後ほど必要な時に聞けばいいしな。
そう思ったところで。
「フルエはどうしてここウージナの学校に来たんだ。確か家はシンコ・イバシだろ」
さっきの書面を見ていないヨーコ先輩がそんな質問をした。
「ホン・ド殿下に此処に行けと言われたようですわ。紹介状をいただきました。あと国王庁の審査結果も問題なしで受け取っています」
アキナ先輩がそう簡単に説明する。
「そうなのか。でもフルエは速度特化の身体強化と風魔法メインの魔法剣士だろ。何故ここに」
「それは俺のせいです」
タカス君が静かな声でそう認める。
「それで一つ質問します。この中に他の世界の知識を持っている方がいるとお聞きしたのですが、本当ですか」
うわ、何だと!
でも殿下が関わっているからにはその事を知っている可能性もあるんだよな。
この場合、否定するのはおかしいだろう。
機密保持も問題無いようだし。
彼の台詞はまだ続く。
「殿下が言っていました。俺と同様に別の世界を知っている人がここに来ればいると。そこでなら俺の知識も魔法も他を気にせず活用できるだろうと」
何だって!
でも落ち着いて考えれば納得できる。
何故殿下が此処に彼を呼んだのかが。
だから俺は頷いて認める。
「ああ、俺だ。此処とは違う歴史を辿った世界で暮らした記憶がある。昨年の春に思い出したんだけれどさ」
「それはどんな世界ですか」
「魔法が一切存在しない世界だ。代わりに科学知識と技術で道具を色々作って生活している」
彼はちょっと考えるように間をあけ、そして口を開く。
「魔法が無い世界ですか。不便そうで想像も出来ない」
「最初から魔法が無ければそれなりに何とかなる。実際俺がいた世界は此処以上に便利な世界だったし。ただ全てを再現出来るほどの知識は無いからここで作り出せたものはあの世界の水準までは行っていないけれど。
いくつか再現した機械がこの研究室にもあるから後で案内するよ」
「再現出来たんですか」
「記憶の世界から見たらかなり初歩的な機械だけれどさ」
「最近この辺で普及した水飴という甘味料、この香りと色が違うお茶もミタキ君の知識から再現したものですわ。このロールケーキもミタキ君の記憶から再現して、ミタキ君のお姉さんのお店で売っているものです」
アキナ先輩が説明。
どれどれという感じで銀髪女子、いやフルエさんがロールケーキを口に運ぶ。
彼女はちょっと驚いたような表情をして、そのまま一気に食べきった。
「タカスこれ美味いのだ。貴族のそれも大貴族のパーティにしか出ないような甘さなのだ」
彼は一口食べて、その後目の前に持って来て凝視しながらちょっと考える。
「砂糖は確か輸入物で非常に高価だった筈で……いや違う。似ているけれど構造が少し違うようだ。果物の甘みとも違う」
「わかるのか」
思わず聞いてしまう。
「俺のこの世界での特殊魔法は鑑定魔法系で物の構造がなんとなく見えます。甘み成分の形、全体としては砂糖と似ているけれど、こっちの方がシンプルです。見えるだけでそれを組み替えたりとかは出来ないですけれど」
分子が見えるようなものなのだろうか。
俺の鑑定魔法でわかるのは俺の知識内で対応できる情報だ。
例えば品物なら査定価格、物質なら重さや大きさ、沸点や融点等。
それがデータとしてわかる感じなのだけれど。
同じ鑑定魔法系統でも随分違うものだ。
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