第139話 暗躍の気配
「自己紹介とかは宜しいのでしょうか」
銀髪女子の方が口を開く。
「ええ、今の段階では。ここは少し特殊な研究会ですので、入会までに少しステップがあるのですわ。ですので名乗るのも今は私だけにしておきます」
誰が参加しているかも一応秘密だぞ、という事か。
勿論彼女達も色々調べているだろう。
ここの面子が割れている可能性が高い。
今のはお約束の注意という奴だ、きっと。
「それでしたら紹介状があるのです。こちらを確認お願いするのです」
女子の方が出したのは封書2通。
ひとつはこの学校の事務局で使用している学校名入りの封筒だ。
もう一つはもっと高価そうな紙質で、金箔で封がしてあったりする。
「ありがとうございます。それでは確認させていただきますわ」
先輩はまず学校名入りの方の封筒を開く。
彼女はさっと目を通してうんうんと頷いた。
そしてもう一つの封筒を開こうとして、一瞬嫌なものを見たという表情をする。
何を見たのだろう。
中を改めて確認して、そして先輩は深い深いため息をついた。
何なんだこの反応は。
「状況はわかりました。ようこそ当研究会へ」
えっ。
どういう事だ?
「詳細はこちらを見ればわかりますわ。お2人もどうぞ確認なさって下さいな」
そんな訳で俺達はどやどやとアキナ先輩の周りに集合。
2人もちょっと考えた後、一緒にやってきた。
さて学校名入り封筒の方の中身は、国王庁の調査結果だ。
『以下の者は貴研究会に所属しても問題無いと認められます』
そう記載した下に2人の名前らしきものが記載されている。
なるほど、事務局は調査結果を2人に渡して持ってこさせた訳か。
これなら入会するつもりなら確実にこちらに届く。
なお魔法暗号で国王庁の鍵が確認できるため、これが偽造である心配は無い。
さて、問題は次の書面だ。
『前略元気かい。こっちで燻っているには惜しい人材を見つけたからそっちに送る。仲良くしてやってくれ。また面白いものが出来たら見に行く。では失礼。草々』
文面は以上。
そして署名が……
俺はアキナ先輩が一瞬見せたあの表情の理由を理解した。
ホン・ド・ヒロデン、そう署名されている。
言うまでも無くあの第一王子殿下だ。
「この調査結果とは何なのですか」
銀髪女子の質問にアキナ先輩が答える。
「ここの研究活動では色々機密に属する物も扱っています。ですから新人を入れる際には必ず国王庁による調査を受けてからにしてくれと言われているのです。私達も新たに受け入れるのは初めてなので、これを受け取るのは初めてなのですけれども」
「機密に属する物、なのですか」
「ええ。お茶菓子を食べ終わったら案内しますわ。そのお菓子の由来等もここの活動に関連しているのですけれどね。
ところでホン・ド殿下とはどちらでお知り合いになったのでしょうか」
銀髪女子が長身の男子の方を見る。
出会ったのは男子の方なのだろうか。
「声をかけられたのは昨年春の魔法制御学会。学会を聴講した帰りに、殿下にここに進学するよう勧められた。この前の春休みにまたシンコ・イバシにやってきて、この学校に進学するならグループ研究実践という研究会を訪ねてみるといいと言われ、その紹介状を貰った」
なるほど。
わざわざスカウトしたのなら、彼は何か特異な能力なり知識なりを持っている可能性がある。
しかも初等学校時代から学会を聴講していたなんて、いかにも何かありそうだ。
それにいくらあの殿下でも普通の生徒をここにスカウトするとは……
まああの殿下だから何をするかわからないけれどな。
ん、待てよ。
今の台詞、記憶に何か引っかかるような。
「そう言えば春休み、殿下がシンコ・イバシの学会へ行って、その後ここへ馬無し馬車の件で来た事があったね。あの時殿下がお願いしたい事があるって言っていたのは、ひょっとしてこの件?」
ミド・リーの台詞は俺がその件を思い出すのとほぼ同時だった。
「おそらくそうでしょう。あの時は時間が無くて最後まで言えませんでしたけれど」
「殿下はこちらに良くいらっしゃるのですか?」
銀髪女子の言葉にアキナ先輩は小さくため息をついて頷く。
「神出鬼没な御方ですからね」
そう言ってもう一度ため息をついてから続ける。
「もうすぐ残りの会員2人が来るでしょう。一度席に戻ってお茶菓子を食べながら自己紹介でも始めましょうか」
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