第134話 拠点改造計画
翌日。
「今日は研究棟のゲートに入るまで気配がなんとなくあったよ」
「私も感じた。追跡というよりゲート付近で張っていたという感じだったけれど」
シモンさんとミド・リーはそんな気配を感じたようだ。
俺は一切そういうのは気づかなかったけれど。
シンハ君なら気づくかもしれないけれど、奴はトレーニングに行くから別行動だ。
「誰かがここを調べているのは確かなようですわ。入会が目的なのかそれ以外の目的もあるのかはわかりませんですけれど」
「それで方針はどうなんですか」
「以前言った通りですわ。更に具体的に言うと、ここの場所を突き止めて、そこの扉をノックすること。ノックした時点でこちらの入会審査はOKという事にしましょう。勿論国王庁の審査は別途必要ですけれど。
『この研究会は会員を募集していないので、入会についての取次ぎは学校側でしておりません。直接活動場所へ出向いて交渉して下さい』。
そう情報開示請求の回答にも書かれているそうですわ」
つまり学校側がここの場所をつきとめて直接行け、そう教えている訳か。
「ただ国王庁の審査はもう始まっているようですわ」
えっ。
「もう相手が誰かわかっているんですか?」
「国王庁の方は提出書類等からもう割り出している模様です。私達には伝えていないだけですわ」
「そう言えば情報開示請求なんて出したんだよね」
「その辺も学校側や私達に対するアピールのつもりかもしれないですね」
なるほど。
当然向こうの側も自分たちが調べているという事に俺達が気づくだろう事は予測しているだろう。
ナカさんが言うアピールというのもある程度考えているのかもしれない。
「取りあえずいつご挨拶にいらっしゃってもいいように、ある程度ここも片付けておきましょうか」
確かに今は結構酷い状態だ。
元々この研究室は小さい工場並みの広さがある。
でもそこに、
○ 蒸気ボート
○ 蒸気自動車
○ 熱気球(天井から吊してある)
○ ボイラー
○ 汎用蒸気機関
○ 大型浴槽(壁で囲ってある)
○ シモンさん専用大型機械練成スペース
○ 鏡作成工房スペース
(元・俺用試薬作成スペース)
なんてのが場所をとっている。
つまりもう目一杯という状態だ。
「でもこれを片付けるのは無理だろ。風呂くらいじゃないか」
「それを片付けるなんてとんでもないですわ」
女性陣がうんうんと頷いている。
「それに色々機密が多すぎますよね」
蒸気機関関係は全部アウト。
魔法杖も全部アウト。
熱気球と鏡、風呂くらいじゃないのかな。
見せても問題無いものは。
「新人さんがいらした際はすぐ会議室にご案内して、色々見えないようにしましょう。秘密を要するものはまとめて整理した後、逆鑑定魔法と隠ぺい魔法をかけておいて。いずれにせよもう少し片づけたほうがいいでしょうね」
「そうですわね。整理しておけば今後の説明する時も楽になりますわ」
「同意」
「そうだな」
その辺が落としどころだろう。
俺も頷く。
そんな訳で今日は研究や作成を一時中断。
研究室の整理整頓にとりかかろうとした時だ。
「どうせなら上に空いている空間を使えるように床を張らない? そうすればより広くこの場所を使えるよ」
シモンさんがそんな提案をした。
確かにここの研究室は小型帆船も整備できるくらい天井高が高い。
普通の講義棟の2階分+天井裏の高さがある。
「暗くならないか」
「その辺は設計次第だと思うよ。窓ガラスも高い部分は一部あの透明なものにすれば明るくなるんじゃないかな。どうしても灯りが欲しいときは灯火魔法なり電気照明なり使えばいいしね」
なるほどな。
その辺はさすがシモンさんだと思う。
「どうせならあの大型浴槽を上に持っていかない? 窓際に設置して窓を透明なガラスに変えれば外を見ながらゆっくりお風呂に浸かれるよね」
ミド・リーがとんでもない提案を口にした。
おいちょっと待った!
「水は重いから上にするのは強度的に大変だろ」
とりあえず理屈で反対しておく。
「舟を吊り下げるためのフレームがあるよね。あれをもう少し強化して支えてやればそんなに難しく無いと思うよ。お湯を上に持っていくのは蒸気機関を使えばいいし、上なら排水した後乾かすのも楽だしね」
おいシモンさん、ちょっと待て。
「楽しそう」
「面白そうですわ」
「場所も広く使えますね」
フールイ先輩とアキナ先輩、ナカさんまで賛意を示している。
つまり俺ではもう止める事は出来ない。
「ならちょっとどんな風に造るか図面を描いてみるよ。ヨーコ先輩やシンハが帰ってきたら皆でおやつを食べながら駄目出ししてもらってさ」
つまりは展望風呂案、決定という事か。
なんだかなあ。
煩悩の種をこれ以上増やしたくはないのだけれど。
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