第130話 研究作業の状況

 俺の研究は遅遅として進まない。

 コイルの方はある程度成果が出ているのだ。

 でもコンデンサーに対応する方がどうにもうまくない。

 空気を絶縁体とした平行板コンデンサーというのが駄目なのか。

 なら別の絶縁体を使えばいいのだろうか。

 それとも単に今作成しているものでは容量が足りないのだろうか。

 実験用に使っている鹿魔獣チデジカの魔石にも限りがある。

 まだ1個しか使い切っていないけれど。


 容量不足という可能性を考え、コンデンサーの新型をシモンさんに作って貰った。

 薄い魔法銅オリハルコン板の表面に薄く樹木の樹脂を塗って乾かし、別の魔法銅オリハルコン板と貼り合わせた物だ。

 20cm平方の大きさの物を20枚作って貰った。

 これなら今まで実験で使っていた可変コンデンサーより容量は大きいはずだ。

 容量調整は並列に繋ぐ板の数で行う。

 少し面倒だが仕方ない。

 あ、その前に。


「5番の鏡中止。至急酸を入れて」

「わかった」

 ミド・リーが鏡製造用の容器のひとつに用意しておいた液体を入れる。

 セーフだ。

 今、雷銀が出来そうな兆候があったからな。

 あれが出来たらドン! 

 爆発事故だ。

 怖いので常時鑑定魔法で監視をしている状態。

 ミド・リーはゆっくり5番に浸していたガラスを持ち上げる。

「一応問題無く出来ているみたいだけどね」

「でも層がちょっと薄いな。もう一度やった方がいい」

「わかった」


 鏡製造は相変わらずだ。

 この映りのいい鏡、かなり好評らしい。

 でも鏡製造もそのうちスキンケアと同じようにシンハの家にぶん投げるつもりだ。

 鑑定魔法持ちが常時監視する必要があるけれど。

 女子の皆さんが製造に飽きたらそう意見することにしよう。

 今は色々なデザインの鏡を半ば自分用に作る事に夢中だから。


 鑑定魔法は常時起動にしておきつつも俺は俺の研究を続ける。

 実験回路に作ってもらったコンデンサーを接続する。

 これは鹿魔獣の魔石と接続されていて、魔力が通れば電圧計の針が動く仕組みだ。

 今は既に上はコイルでぎりぎり通る帯域になっている。

 あとはコンデンサを接続して電圧計の針が下がり始める場所を見つければいい。

 そうすれば帯域の上と下をカットし、電気魔法だけを通す回路が出来上がる。

 これを応用すればそれぞれの魔法だけを通す回路が出来る訳だ。

 この発想はスピーカー用のネットワークの設計方法。

 ツイーターやミドルレンジ、ウーファー等の音域を調節する回路だ。


 さて1個接続の状態では……変化無し。

 次は並列で2個……

 研究は続く。


 鐘が鳴る。

 本日の活動は終了だ。

 残念ながら俺の研究は今日も成果が出なかった。

 でももう少しという感触はあるのだ。

 少なくともコンデンサーがコンデンサーとしての機能を持っている事は確認済。

 全部を並列につなぎ回路を作って電源をオンオフすると、コンデンサを接続していない時よりも電流計の反応が遅くなるのだ。

 つまりこの形式のコンデンサで魔力をある程度蓄積することは出来ている。

 だから予想が正しければあとは容量の大きさだけの筈なのだ。

 きっと。


 鏡部門も片付け中。

 全部の溶液を中和しているところだ。

 これを忘れると研究室内で爆発が起きる可能性がある。

 色々面倒なのだが仕方ない。

「お疲れさまでした」

「また明日、ですわね」

 そんな感じで別れる。

 俺、シンハ君、ミド・リーは帰る方向が同じ。

 だからだいたい一緒に帰る。


「そういえばミタキ、今は何をやっているんだ? シモンさんに色々作って貰っては実験しているみたいだけれどさ」

 そういえばまだ誰にも説明していなかったな。

「要は魔法杖の続きさ。今までの魔法杖は自分の持っている特殊魔法を増幅するものだった。でも今回作っているのは自分の持っている魔法以外の魔法効果を引き出すものだ。うまくいけばシンハが治療魔法を使ったりミド・リーが工作系魔法を使ったりできるような、そんな杖の部品の一部だ」

 そう、今作っているのは誰でもすべての魔法を使える万能杖。

 厳密にいえばその第一段階の部分だ。

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