第131話 実験成功?

「そんな事出来るの?」

 ミド・リーの台詞に俺は頷く。

「出来ると思う。例えば日常魔法ならほとんどの人が火魔法も水魔法も使えるだろ。ただ威力を大きくしようとするとうまくいかない。それは実は自分の持っている特殊魔法が邪魔をしているんじゃないか。そう思ったんだ。

 だから得意な魔法が邪魔をしないよう魔力を杖で制御する。必要な魔法に適した魔力だけを選んで引き出してやるんだ。そうすれば誰でもほぼ全ての魔法を使えるんじゃないかと思ってさ。無論治療魔法の高度なものは医学の知識が必要だし、シモンさんの工作系魔法は物を立体的にイメージする能力が必要なんだろうけれど」


 以前学長が言っていた。

 記憶の中の世界では殆どの人がいくつもの魔法を持ち、それらを自由に使用して快適な生活を送っていたと。

 それを元に日常魔法を生み出したと。

 ならこの世界でもほとんどの人はいくつも魔法を使える能力を潜在的に持っているのではないか。

 それを引き出すにはどうすればいいか。

 そう考えた結果が今の研究の始まりだ。

 まあ理論というか方法論は俺の前世の知識、スピーカー用ネットワークの仕組みをそのまま使っただけなのだけれど。


「それが出来れば魔法の革命だよな。誰でも本当に自由自在に魔法が使える」

「勿論知識や思考能力によって差は出ると思う。さっき言った治療魔法とか工作系魔法以外だってそうだ。例えば俺の鑑定魔法は俺の知識に紐付いた範囲までしか鑑定できないしさ。それでもこれが実用化できれば、誰だって今の日常魔法の数倍の魔法は相性や資質に関係なく使えるようになると思うんだ。まだ遠い道のりだけれどさ、完成までには」

「最近、ミタキはずっと何か実験やっているものね」

「そういう事。なかなか思った通りの結果が出なくてさ」

「でもそんなとんでもない事、そう簡単に実現したら専門の研究者もたまったものじゃないだろ。なかなか上手くいかない位が当たり前なんじゃないか」

「まあそうだよね」

 確かにな。

 焦る必要は無い。

 のんびり研究すればいいんだ。

 そう思うと少し気分が楽になる。


 ◇◇◇


 さて、そんな訳で翌日の午後、研究室。

 コンデンサーは更に大型化し三板タイプに進化。

 

 本日も鏡の生産を行っているのでそっちの監視も欠かせない。

 まあ鑑定魔法を常時発動状態にして対象固定しておけばいいのだけれど。

 昨日より少し容量を上げた状態で実験開始。

 ん、昨日より電圧計の数値が少し下がったような。

 でも成功と考えるのはまだ早い。

 更に並列にコンデンサーを追加して確認。

 おっ、また数値が下がっている。

 これはひょっとして成功という奴では……


 容量を微調整して下がり始める場所を探す。

 下がり始める場所の手前でコンデンサの数を固定。

 データを記録する。

 鹿魔獣の魔石からの配線を外し、手持ち用の棒に接続。

 さあ、この棒を持って俺が魔力をかけて電圧計の針が動けば、俺も電気魔法を使えているという事になる。

 挑戦する寸前に鑑定魔法発動中であることを思い出した。

 鏡製造中に鑑定魔法が切れたらまずい。

 普通は魔法を同時にいくつか使用できるのだが万が一のことがある。

 もしも雷銀が出来そうな事を感知できなければドッカンだ。


 こういう時は応援を呼ぼう。

 シンハ君はまだトレーニングから帰っていないから駄目。

 他に暇そうにしている召喚可能な人材は……

 ミド・リーは魔力は大きいけれど魔法の性質が温和だからいいかもしれない。

 ただ今は片手で持つ鏡を嬉々としてデザイン中だからパス。

 ナカさんも同じく楽しそうに折りたたみ鏡なんてデザインしているからパス。

 とすると……


「シモンさんごめん、ちょっと手伝って貰っていいか」

「いいよ、何かな」

 毎度毎度申し訳ないけれどついシモンさんに頼ってしまう。

「この実験装置は予想通りなら魔力から電気魔法の成分を取り出す装置になっている筈なんだ。それで魔力を込めてみて電気魔法が発生するか確認したいけれど、俺は鑑定魔法を発動中で実験出来ない。だから申し訳ないけれど、ここを持った状態で、この炭素棒に熱が発生するように魔法をかけてくれないか。イメージとしてこの持った棒から魔力を流すような感じで」

「棒から魔力を流すイメージだね。わかった。やってみるよ」

 シモンさんが魔力出力用の魔法銅オリハルコンの棒を持つ。

 さあどうだ。

 俺が見ている前で電圧計の針は間違いなく動いた。

 鹿魔獣の魔石の時ほどでは無い。

 でもその半分程度の所をしっかり針は指している。

 

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