第73話 クサズリ砦無事到着
道中の運河や川は非常に良く整備されていた。
おそらく鉱山から舟で鉱石なり何なりを運ぶからなのだろう。
殆どの区間が真っ直ぐで脇に馬車道のついたタイプに整備されている。
この馬車道は馬で舟を川上に引き上げるためだ。
川が整備されているのをいい事にシモンさんが飛ばしまくる。
この世界、移動魔法を除いた最速の運搬手段は身体強化した人間の全力疾走。
もしくは早馬による高速伝達便だ。
しかしこのボートはそれらの倍近い速度でぶっ飛ばす。
8人と荷物を載せた状態で。
一応他の舟とすれ違ったり追い越したりする時は速度を落とす。
でもそれ以外では正気と思えない速度だ。
「もう少し速度を落としませんか」
さしものアキナ先輩すらそんな台詞を口にする状態。
「でもヌクシナは遠いしね。
「そうだな。早く着くに越したことは無い」
「同意」
操縦しているシモンさん、その後ろのヨーコ先輩、そしてその隣のフールイ先輩はこの速度でも当然という感じ。
結局他4人はあえて前を見ないという作戦に出た模様だ。
なお俺はポジション上、基本的に後ろ向き。
追い抜かした舟があっという間に点になるなあ、と思う位だ。
あえて前を見たいとも思わない。
途中カーミヤで軽食を買って、ついでに石炭も満タンに補充。
それ以外はほぼ飛ばしっぱなしで、何とか明るいうちにクサズリ砦に到着した。
所要4時間半というところだろうか。
「やっぱり川を上るのは速度が出ないね。帰りは下りだからもっと出せるかな」
「楽しみだな、それは」
帰りは蒸気の圧力を絞っておこう、皆の命の為に。
そう思う俺だった。
谷間みたいに両脇が切り立った中を進むと上流側正面に堰堤、その手前に船溜まりがある。
ここで舟は行き止まり。
クサズリ砦はその船だまり左手前にある白い石造りの古い砦だ。
ヌクシナの町から見て一番上流側で、ここで鉱山やそのほか山側からくる魔獣を食い止めるという作りなのだろう。
この船だまりは鉱山と砦が使用しているようだ。
ヨーコ先輩は勝手知ったる感じで砦から直接出ている桟橋にボートをつける。
寄ってきた係員がヨーコ先輩の顔を見て、慌てて一礼した。
領主の娘の顔は既に割れている模様だ。
「ちょっと話を付けてくる」
ヨーコ先輩が立ち上がる。
「座りっぱなしだったせいか少しふらつくな」
そう言いつつ砦の中へ。
「とりあえず荷物を降ろそうか」
「そうだね」
という事でボートから立ち上がろうとすると、どうもうまく立てない。
「うう、座りっぱなしだったので何かうまく立てない」
「僕は平気だけれどな」
「私も微妙にふらつきます」
ずっと座っていたからだけではないと思う。
高速ボートの妙な揺れと振動で平衡感覚が少し狂っているのだ。
とりあえず銃等の濡れては困る物や着替え等を降ろしたところでヨーコ先輩が戻ってきた。
「舟はここでいいそうだ。部屋の鍵を貰ってきた」
皆でヨーコ先輩を先頭に砦の中へ。
外見同様石造りで重厚な作りだ。
最近の骨組みが木の作りに比べると内部の効率は悪そうだけれども。
階段を上って上って登って、ぐるっと廊下を曲がる。
先輩は正面の大きな扉を勝手知ったるという感じで開いた。
「ここが今回私達が借りた部屋だ。風呂もキッチンも一通り揃っている」
見るとなかなか広くていい感じの部屋だ。
中に全員が集まれるテーブルとか、そこそこ広めのキッチンとかが見える。
「これってどう見ても冒険者用の部屋じゃないよね」
「同意」
確かにちょっと立派すぎる。
ひょっとしてこれは。
全員の視線がヨーコ先輩に注がれる。
「ばれたか。ここは領主が視察に来た時に泊まる部屋だ。付き人の分も含めてベッドの数もあるので、ここを借りておいた」
反則だろう、それは。
快適なのはいい事かもしれないけれど。
「とりあえず各自の寝る部屋を決めて荷物を置いてくれ。そこにドアが並んでいるのがベッドルームだ。それぞれ個室だから自由に選んでくれ。それが終わったら作戦会議だ。この付近の地図や最近の魔獣出没状況も聞いてきたからそれも説明しよう」
そんな訳で俺達も荷物を抱えて適当な部屋へ。
本当は端が良かったのだがフールイ先輩に取られたのでその隣の部屋に入る。
ベッドとロッカー、小さな机があるだけの最小限な部屋だ。
まあここは寝るだけだしこれで充分だけれどな。
一応窓もあるので開けておく。
これで少しは風が通る。
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