第74話 魔獣討伐作戦

 部屋に荷物を置いたら作戦会議だ。

「まずこれがこの付近の地図だ」

 ヨーコ先輩が紙を取り出し中央に置く。

「町と砦、そして鉱山の位置はこんな感じ。そして魔獣は主にこの川沿いにやってくるらしい」

 砦の西、山から流れてくる川の所をヨーコ先輩は指さす。


「なるほど、町は川で囲まれていて魔獣に襲われにくくなっているんだね」

「ああ。町に行くには砦を通るか、ずっと川下の沈殿池を回るしかない。何度も魔獣に襲われるのでこうなったんだろうな。さて」

 ヨーコ先輩は砦の西側、堰堤の上流側を指す。


「ここは水量及び水位調整の堰堤なんだが、冬の間はそこそこ水位が下がっている。

 さて、水位が下がっていると堰堤の向こう、本来は水があるところが乾いて魔獣が歩けるようになる。砦から上流を見て右側が比較的広く、ここを通ってくることが多いそうだ。この場合この堰堤を渡って砦に近づいたり、更に川の向こう側を通って下の平野に出たりする。これを堰堤より上流側で討伐してくれ、これが今回の依頼だ」

 なるほど。


「採掘場の方は気にしなくていいの」

「あっちはめったに魔獣は行かないし、行っても採掘場の警備兵と町の警備兵が担当するそうだ」

「魔獣の出てくる頻度はどれくらい?」

「例年だと2~3日に1回位だそうだ。今年は堰堤湖の水位が下がってまだ間もないから、岸部分が完全に乾ききってないようでまだ出てきていないらしい」


「ならとりあえず堰堤まで行ってみませんか。一度見てイメージを掴んでおいた方がいいですわ」

「同意」

「そうですね。行ってみましょう」

 そんな訳で部屋を出る。


 ヨーコ先輩は今度は階段を通らず、通路を奥へと歩いて行く。

 下に比べて遙かに大きい立派な受付があり、奥に兵士詰所があるのが見えた。

 外に出ると町と採掘場、堰堤をつなぐ石造りの広場。

 どうもここが本来の砦の正面らしい。

 船着き場は舟の通行のためかなり下の位置にあるようだ。

 採石場から鉱石を運ぶのに使うらしい、船着き場へ降りるスロープも見えた。


 問題の川上へ続く堰堤は、歩ける幅が1腕2m程度の石造り。

 上流側は確かに水が引いて右岸側に草の生えていない地面があるのが見えた。

「あの地面部分を通ってくるんだね」

「そのようだな」

「何か足が汚れそうです」

「その心配は無いと思いますわ」

 アキナ先輩がすっと右腕を伸ばす。

 30腕60mくらい先、元水面下だった土の上に落ちている木の枝がぼっと炎をあげた。

「ここからこうやって狙い撃てばいいのですわ」

 なるほど。


「でも魔獣が出るまでここで待っているのも暇だよな」

 シンハ君の台詞に俺もうんうんと頷く。

 だがアキナ先輩はにやりと悪そうに笑って口を開いた。

「来ないなら来るように仕向ければいいのですわ。あの大型魔法杖を使えばヨーコさんもフールイさんも数離数kmのところまで魔法を使えますよね。風魔法や小爆発で脅して追い立ててやれば必然的にやってくると思います。そこをここから叩けばわざわざ下に降りることも無いですわ」


 なるほど。

 そう思ったところでふとある事に気づいた。

 確かにそれならば魔獣をここから倒す事は出来るだろう。

 でも……

「倒した魔獣を回収するには、下に降りないと無理です」

 ナカさんが冷静に指摘する。

「……歩くのに必要な部分は熱魔法で乾燥させておきますわ」

 アキナ先輩も自分のミスに気づいた模様だ。

 肩をすくめて見せたその時だった。


「あ、何か来るよ」

 ミド・リーがそう言って上流の方を見る。

「どれ、見えない」

「右の岬の陰。魔法で確認したの。思考が人じゃない。でも魔力を持っているから魔獣ね。多分猿魔獣ヒバゴン、1匹だけ」

「そういえば夕刻が一番盛んに活動するとも聞いたな」

 ヨーコ先輩それを早く言って下さい。

「1匹だけなら魔法杖や武器は必要ないだろう」

 まあこの面子ならそうだろうけれど。


「どうする、誰がやる?」

「今回は私にやらせていただけますでしょうか。魔法コントロールの成果を確認してみたいので」

 アキナ先輩がやる気のようだ。

「わかった」

「了解」

 皆さん同意の模様。


 そして奴が現れた。

 猿の魔獣だが、大きさ的には人間に近い。

 だが全身毛まみれで移動も四本足で走っている。

 奴はこっちを見ると動きを止め、立ち上がった。

 グーギーギー、そう吠えて威嚇する。

「魔法を使われると困るので始末しますわ。もっと寄せたかったのですけれど」

 アキナ先輩がそう言ったと同時に、猿魔獣ヒバゴンは飛び上がった。

 そしてそのままばったりと倒れる。

 少しだけ両足が痙攣したように動いたがそれもすぐ止んだ。


「もうやったのか」

「ええ」

 アキナ先輩は頷くがここから見た限り何処も異常は見つからない。

「頭蓋骨の内側を瞬間的な高熱で固化させたの。魔法で見ないとわからない。凄い精度だわ」

「毛皮や魔石に損害なく倒せるように考えたのですわ」

 ミド・リーの解説にアキナ先輩は頷く。

 なるほど見事だ。

 でもさしあたって問題がひとつある。

 誰が泥の中あれを取りに行くか。

 しかも魔獣といえど野生動物。

 ダニとかがついている場合も多いし、血液等が流れたら服も汚れるし気持ち悪い。


「俺が取りに行くよ。近くに他の魔獣はいないよな」

 人のいいシンハ君がそう言ってくれた。

「湖内運搬用のスレッド舟を警備隊が持っているはずだ。借りてこよう」

「とりあえずあそこまで乾いた道を作りますわ」

「一緒に行ってダニ等の始末や血抜きをしておくね」

 なるほど、皆が揃っていれば多少の問題も何とかなるわけか。

 俺も運搬用のスレッド舟を引っ張るくらいは手伝おう。

 魔法では役立てないけれど身体は健康になった筈だしさ。

 皆で最初の獲物を回収に動き出した。

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