第45話 とても巨大な魔法杖(案)

 とりあえず魔法杖を調べ終わったのでシンハ君宅別館へ。

「お、やっと来たな」

「まずはおやつからお願いします」

 はいはい。

 最近ここで石鹸を作っているよりおやつを作っている時間が長いような気がする。

 きっと気のせいではない。

 まあ労働者の皆さんの機嫌取りには不可欠な作業。

 だからまあ仕方ない。


 本日作るのは蒸しプリンだ。

 卵多め牛乳少なめ水飴使用というレシピ。

 餡子をのせて水飴をかけホイップクリームをのせれば完成。


「凄く美味しいけれど量が少ないな」

 ヨーコ先輩が文句を言う。

 でも大きめのマグカップサイズだからプリンとしては決して小さい方では無い。

 まあ昨日はふわふわパンケーキを1人3枚だったからな。

「本来のおやつはこんな量です。あまり多いと太りますよ」

「悪いがその分運動している。問題ない大丈夫だ」

 ヨーコ先輩は家に帰った後もランニングとか筋トレとかしているらしい。

 俺にはまねできない習慣だ。


「ところで今日はどんなご用事だったのかしら」

 アキナ先輩が尋ねてきた。

「調べたいことがあって、ちょっと図書館へ行ってきたんです」

「また何か新作を思いついたのかい?」

「思いつく前の下調べ段階ですけれど」

「何を調べたの?」

「魔法杖」


「あれってあまり面白く無いと思うな」

 シモンさんがそんな事を言う。

「どうして?」

「デザイン等の美的価値は別として、基本どんなに頑張ってもそう変わった性能のものが作れるわけじゃないから。今までいくつか作ってみたんだけれど、色々デザインを変えても性能は変わらなかったんだよね」

 お、シモンさん。過去に試していたのか。

 少し話を聞いてみようかな。

 

「シモンさんはどんな風に魔法杖を作った?」

「魔法杖の一般的な作り方は、まず頭の部分のデザインを作るんだ。そして本人に持ってもらった上で、長さを少しずつ短くして一番魔法の通りがいい長さを確認して、あとは下の方を仕上げる感じかな。

 前に研究してみた時は、デザインと素材を変えてみたんだ。

 素材は鉄、銅、魔法銅オリハルコン、トネリコ、樫。デザインは頭の部分が大きい一般的な形、単なる丸棒、単なる角棒、円錐状、角柱状、上下を丸めるという感じだね。

 確かに魔法銅オリハルコンを使うと少し性能は良くなるけれどさ。重くなるから実際には使いにくくなる。そして素材の他には工夫し甲斐は無かったな。魔法杖あれは作って面白く無い。だから最近は作っていないんだ」


 なるほど。

 でも確かにそれでは性能は変わらないだろう。

 もし魔法の伝播が霊的なものと関係なく単なる波だとしたらば。

 一般的な魔法杖はアンテナの種類で言うところのモノポールアンテナなのだろう。

 そして俺は前世のある有名なアンテナを思い出す。

 テレビ受信にもよく使われる、アンテナそのものに増幅機能があるアレだ。


「魔法杖らしいデザインではなくなるかもしれない。大きさも今までと比べて大きくなる。でも性能が良ければ使ってもらえるかな」

「性能次第ですわ。特に軍では射程距離が伸びるならどんな形でも使うと思います。射程の長さが生死を分けるなんてのはままありますから」 

 よしよし。

 八木宇田アンテナはまさに性能的に適している。

 あれは増幅機能があるし指向性も高いしさ。


「絶対何か思いついているでしょ、ミタキ」

 ミド・リーに指摘される。

 こいつは付き合いが長い事もあって俺の表情を読む。

 まあ表情だけでなくその気になれば心も読めるのだけれども。

 ついでに言うと俺は思いついたら試してみたくなる性格だ。

 更にこの場には何でも作ってくれるシモンさんがいる。

 風魔法、熱魔法、治療魔法の使い手もいる。

 試してくれと言わんばかりの布陣だ。


「ならこの後の作業は中止になるけれど、ちょっと試作品を作るの手伝ってもらっていかな」

「いいね、乗った!」

 制作担当シモンさんが真っ先に同意してくれた。

「商品の在庫は結構あるから大丈夫です」

 ナカさんもOKを出してくれた。

 よしよし。


「ならばシモンさん、確かこの別館用に使っていない銅製のスチーム暖房器具がありましたよね。あれを材料にちょっと加工お願いします」

「よしきた。まずはどんな物をつくるんだい?」

「銅製で、直径1指1cmで厚さは振り回して折れたり曲がらない程度のパイプを作って下さい。長さはとりあえず70cm、75cm、80cmでお願いします」

「任せて」

 シモンさんが立ち上がって石鹸工場の部屋方向へと消える。

 新しい物を作るのが本当に好きなんだよな、あの人シモンさんは。


「とりあえずアキナ先輩、ヨーコ先輩、ミド・リーで試して貰おうかと思っています。他の人のは魔法の性質上、あまり効果が無いかもしれません」

「どういうものになるのかしら」

「狙った方向に強力に魔法を飛ばせる杖です。形は杖とかけ離れてしまいますけれど。予想通りの性能になれば攻撃魔法や治療魔法にはかなり効果があると思います」

 俺は近くにある紙を引き寄せて簡単な図面を書く。

「大きさはかなり大きくなりますね。横方向に今までの杖の2倍、縦方向には今までの杖の4倍。しかも長い方向を横にして持つ事になります」


「むちゃくちゃ大きくないか、それ」

 シンハ君に言われて改めて気づく。

 確かに俺の部屋並みの大きさだ。

 持ち運びとかは大変そうだな。

 一般に売れるような代物では無いかな、これは。

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