第46話 八木宇田アンテナ(魔法用)

 確かに考えてみるとこの魔法アンテナ、実用的な大きさではない。

 これではお金にはならないだろう。

 でも理論があっているかどうか確認はしてみたい。

 だから一応作ってみようと思う。


「ミタキ君、言われた通りのパイプを作ったよ」

 シモンさんは相変わらず仕事が早い。

「今簡単に図を描いてみたんだけれどさ。どうも巨大なものになりそうなんだ。でも理論通り魔法が強力になるのか試してみたいからさ。商品にはならないかもしれないけれど作ってみて欲しい。いいかな」


「新しい物を作れるなら何でも歓迎だよ」

 シモンさんのスタンスは明快だ。

「じゃあすまないが頼む。まずはヨーコ先輩、アキナ先輩、ミド・リーの3人に、このパイプを魔法杖として最適な長さに切ってくれ。切るだけで形は真っ直ぐのパイプ形状のままがいい。長さはヨーコ先輩に一番短いの、ミド・リーに一番長いのを使ってくれ。数cm切れば大丈夫な筈だ」

「了解っと」


 シモンさんが杖をあわせている間に俺は概念図をもっと詳細に描く。

 設計図のように正確に線を引いたりはしていないが、長さ等の最低限必要事項を書いておく。

 これを見ればシモンさんが色々工夫して作ってくれる筈だ。

 魔法杖本体が大きすぎるのでスタンドで立てる。

 出力は片方は右手か左手で、もう片方は足で踏む事にした。

 使用者はアンテナ型魔法杖の後方に立ち、片手で魔法を出力しながらアンテナの照準を合わせるようにする。

 持ち運び出来るよう折り畳み機構も付けて貰う事にした。

 ただしアンテナの受信や導波、反射に使う棒は折り畳み等せず一体成形でつくるよう書いておく。


 重要部分の寸法と詳細要求事項をほぼ書き終えたところで。

「終わったよ。次はどうすればいい?」

 シモンさんの声が聞こえた。

 そんな訳で早速図面を見せる。

「こんな感じで棒を組み合わせてくれ。ここは折り曲げ可能で、こことこことこことこことここの部分は一体成形で」

「了解。これくらいならすぐ出来るな。でもこれ、本当に魔法杖なの?」

 確かに杖らしい形でないのは俺も認める。

「今回は知っているものではなく、知っているものからの応用だ。完全に動作するかどうかの確信は無い。だから1個作ったら試して貰おう」

「わかった。じゃとりあえず一番小さくなりそうなヨーコ先輩のを先に作るよ」

「任せた」


 そんな訳であとはシモンさん任せ。

 でもお茶をカップ一杯ゆっくり飲む時間も経たないうちに、

「出来たよ」

というシモンさんの声が聞こえた。

 早すぎるだろう、シモンさん!

 早速石鹸工場の部屋へ行ってみる。

 部屋の東半分の空いたスペースに正に俺が描いた通りの八木宇田アンテナが鎮座していた。

 材料は銅と鉄、それに木を使っている。

 完璧な出来だ。

 工作系魔法使い恐るべし。


「これは私専用でいいんだよな。それでこれはどう使えばいいんだ」

 ヨーコ先輩が俺に尋ねる。

「魔法杖はどっちの手で使っていますか」

「左手だな」

「なら左手であの後に出ている棒を掴んで、下の銅板を踏んで下さい。そうしたら杖の先端を魔法対象の向きに向けて下さい。あとは魔法杖を使うのと同じです」

「わかった。ちょっと想像がつかないがやってみよう」

 先輩が下の銅板の処へ足を踏み出す。

「窓は開けなくてもいいですか」

「壁越しでも風の動きは見える。問題無い」


 ヨーコ先輩はアンテナの後ろの板部分に立ち、方向舵兼魔法入力場所を掴む。

 その瞬間びくっ、と身体を震わせた。

「大丈夫ですか」

「見える、見えるぞ!」

 ナカさんの心配そうな声とは逆に妙にハイな声のヨーコ先輩。

「何が見えるんですか」

「壁の外、それもかなり遠くまで風の動きがはっきり見える。ここまで鮮明に風を見たのは初めてだ。しかも遠くまで幾らでも見える」


 先輩は方向舵を動かして別の方向を見る。

「錯覚じゃ無い。この方向でも同じだ。よし、ちょっと威力を試させて貰おう」

「危ないことはしないで下さいね」

「大丈夫、雑木林の枝がひとつ犠牲になるだけ……見事だなこれは」

「どうだったんですか」

2離4kmくらい先の木の枝を風の刃ウィンドカッターで切ってみた。斬れ味も問題無い」


「本当でしょうか」

 お、アキナ先輩が食いついてきたぞ。

「間違いない。洒落にならないぞこれは」

「私も試してみて良いでしょうか」

 おっとアキナ先輩待った。

「この魔法杖は風系統の魔法使いでないと効果は無いと思います。アキナ先輩用は少しお待ち下さい」

「ならちゃっちゃと作るね」

「それじゃヨーコ先輩用の杖は折り畳みましょうか」

「ちょっと待ってくれ、もう少し使ってみたい」

 魔法を波として考えた杖もどき、どうやらうまく行ったようだ。

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