第6章 電波も魔法もゆんゆんと

第44話 日本に存在しないもの

 最近はスキンケア用品やおやつを作る傍ら、次に何が出来るか考えている。

 日本に存在してここに存在していないものを作るのはそろそろ打ち止めに近い。

 これ以上は俺自身の知識では作れないものが多いと思うのだ。

 そもそもまだ電気が一般化されていない世界だしな、ここは。


 以前アキナ先輩と話したときヒントをもらった。

 この世界独自のものにも同じような法則が通用するのではないかと。

 日本に無くてこの世界にあるもの。

 真っ先に思い浮かぶのは魔法と魔獣だ。

 しかし魔獣はアストラム国でもこの辺にはほとんど出没しない。

 軍等によって人口の多い平原部からはほぼ駆除されてしまったからだ。

 出会いたいなら山岳地帯へでも出向く必要がある。

 俺の体力ではそんな疲れるところへ行くなどとんでもない。


 そうなると魔法の研究となるが……

 図書館で魔法の研究書を数冊見たがあまり参考にはならなかった。

 俺は魔法がどんな性質の力か調べたかったのだ。

 でも神がどうだの悪魔がどうだのいう話が半分以上。

 参考になる部分はごく少ない。

 ざっと読み飛ばした結果、魔法については、

  ○ 神が人に授けた力だとか悪魔の力を奪ったものとか言われている

  ○ 人によって魔法の効果は微妙に異なり、全く性質が同一の魔法は存在しない

  ○ 治療魔法持ちは回復魔法も持っている事が多いというように、使える、または習得しやすい魔法の系統というものは存在する

  ○ 年を取る、または魔法を何度も使うと保有魔力が増える傾向にある

という事以外はよくわかっていないようだ。

 一応経験則である程度の知識体系は出来てはいる。

 でもあくまで経験則であり、理論から出来た法則では無い。


 ただ魔法全般を考えるのは今の段階では無理なようだ。

 なら魔法で俺の知識を転用できそうな処は……


 魔法はある程度離れた場所にも作用できる。

 離れた処に作用するというと、その伝達方法は波か粒子か。

 もしも波ならその性質を利用できる可能性があるかもしれない。

 そこで思いつくのが波の共振を利用したアンテナだ。

 そして魔法の道具の中に杖というものがある。

 一般的な日常魔法程度では使わないが、軍の魔道士等大出力の魔法を使う魔法使いは使用している事も多い。

 あの杖というのは実は共振を利用したものではないだろうか。

 もしもそうなら杖の長さを調べれば魔法の波長がわかるはずだ。


 そんな訳で本日は放課後、寄り道をすることにする。

 いつも通り待ち構えていた先輩2人に、

「すみません。今日はちょっと調べ物をしてから行きます」

「あ、そうか……」

「では失礼します」

と言い切ってさっさとその場から逃げる。

 ついてこない。逃げ切りに成功だ。

 何もない時にもこの手を使ってみようかな。

 多分効果は数日持たないだろうけれど。


 さて、向かうのは図書館別棟の魔法資料展示室。

 ここには魔法関係の資料が展示されている。

 その中には魔法杖とか水晶玉といった道具類も含まれているのだ。

 そんな訳で調査開始。

 鑑定魔法で展示品の杖を一通り調べさせてもらう。

 

 まず百年以上前の大戦で使われたという樫の杖、全長61.5cm

 初代軍魔法騎士団長の杖、素材はセイヨウトネリコで全長62.7cm

 片っ端から全長と材質を調べていく。

 鑑定魔法を使えるから調べるのは楽だ。


 そんな訳で半時間30分で計72本の杖を調べた。

 材質はセイヨウトネリコが多い。

 他はオリーブとか楓とか樫とかまちまちだ。

 魔法銀ミスリル製の重そうなものまである。

 トネリコ製が多いのは入手性と曲げやすさが理由だろう。

 何処にでも生えているし熱魔法で簡単に曲げられるから。


 全長は材質を問わず同じ傾向が見られた。

 大体62cm前後と、70cm前後、それに76cm前後。

 例外として185cmとか187cmというのがあったが、これは62cmの奇数倍という事でいいのだろう。

 つまり魔法の伝達が波ならば、最低でも3種類の波長があるらしいことが判明。

 魔法によって波長が違うという事なのだろうか。

 鑑定魔法を使えば杖の持ち主の事もある程度わかる。

 そんな訳で面倒だがもう一度、全部の杖を調べ直す。


 わかりやすい結果が出た。

 風系統の魔法使いの杖が62cm前後だ。

 火炎や寒冷をはじめとする熱魔法使いの杖が70cm前後。

 治療系魔法使いの杖が76cm前後。

 つまり使える魔法によって波長が違うのか。

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