第13話 工場制手工業?

「私はこの水入り牛脂を加熱して、上澄みの脂を掬って漉せばいいのですね」

「はい、まずはそこからお願いします」

 そんな感じで石鹸作りは始まった。


「シンハ、そっちの据え付けはどうだ?」

「順調だ。しかしこれ、なかなか複雑だがよく出来た作りだな」

「へへへへへ、大分色々考えたからね」

 シンハ君に尋ねたのに何故かヨーコ先輩とシモンさんから返答がくる。

 この3人は石鹸製造用の加熱かき混ぜ器を組み立てて設置しているところ。

 シモンさんが俺の考えたもの以上に複雑かつ便利そうなかき混ぜ器を考案して作ってきてくれた。

 単にかき混ぜるだけでなく、木炭の熾火で中を加熱するシステムになっている。

 これならのんびり取っ手を回すだけで加熱、かき混ぜが同時に出来る訳だ。

 なお熱は間に水鍋を通して湯煎状態で伝わるので焦げ付くことも無い。


 今返事の無いみなさんも、それぞれ作業をしている。

 材料や道具の殺菌だとか、

 ダニエル電池の液補充とか、

 水酸化ナトリウム水溶液と食塩水の交換とか、

 容器や瓶、箱や型枠の清浄や組立とか。

 これだけ人数がいると楽だな。

 俺が一人でこまごまやっていた作業が一気に片付く。


「設置完了。これで何時でも作れるぞ」

「なら開始するか。シンハ、漉した脂をアキナ先輩から貰ってきてくれ。熱いから注意してくれよ」

「了解だ。分量は?」

「そこの鍋1杯分」

「おいよっと」


 シンハ君が脂をかき混ぜ器に設置したかき混ぜ鍋に入れる。

 なおかき混ぜ鍋は鉄に釉薬を塗って中がホーロー鍋風になっている。

 しかも簡単に取り外しが出来て、替えのかき混ぜ鍋までついている。

 この辺は全てシモンさんの手作りだ。

 俺の考えていた物より遙かに便利なものが完成してしまった。

 工作魔法持ちの発想力と制作力はとんでもない。


「おいよ、入れたぞ」

「なら木炭に火を付けてと」

 それ位の熱魔法は俺でも使える。

 鍋の下の加熱用木炭に火を付けて、鍋を下の位置にセットし直し、かき混ぜ棒と鍋回転用のギアをセットする。

「それじゃシンハ、ゆっくりかき混ぜ頼む。ゆっくりでいいぞ」

 鍋の中のかき混ぜ棒が回転し、更に鍋本体もゆっくり回転をはじめた。

 俺は水酸化ナトリウム水溶液を鑑定魔法を使いながらゆっくり注いでやる。


「石鹸作りのメイン工程はこんな感じだ。ただひたすらかき混ぜるだけ」

「でもこれからコンディショナーや化粧水の材料も採れるんでしょ」

「そうそう。ただその辺は石鹸が出来た後の作業だからさ。ところでシンハ、かき混ぜる方は大丈夫か? かき混ぜも加熱も充分だし、多分前より大分早く出来上がると思うけれど」

「前に比べれば大分楽だ。前は手首が疲れたが、今回はそんな事も無さそうだし。このハンドルも最初はちょっと重いが、一度回しはじめると結構軽いな」

「定期的に油を差したり歯車の調整をしたりすれば当分大丈夫だよ。それじゃ僕は塩酸捕捉装置の方を組み立てておくね」

「頼む」


 他にもシモンさんには蒸留装置とか色々頼んである。

 俺のお願いを聞いて更に発展させ、俺も思っても見なかった装置に昇華してしまっているのだ。

 本当シモン様々である。

 石鹸が売れればその辺の貢献はしっかり考えておかないと。


「凄え、早くもらしくなってきたぜ」

「どれどれ」

 見てみると既に色が変わってクリーム状になっている。

「前に比べるとえらく早いな。やっぱりかき混ぜる能力が違うのかな」

「何かわからんがこのままでいいのか」

「そのままかき混ぜ棒が動かなくなるまで回してくれ」

 そんな感じで前回2時間近くかかったのが僅か30分以下で、石鹸の素になるものが出来上がった。


「聞いていたより随分早いですね」

「俺もここまで早くなると思いませんでした。かき混ぜ器が優秀なんでしょう」

「そう言ってくれると僕も制作者冥利に尽きるね」

「さて、もう1鍋分作るぞ」

 こっちは少し置いた後、塩析してさっぱり石鹸にする予定。

 その前に今度はしっとり石鹸の方を作る予定だ。

 時間は有効に活用しないとな。


「ではまた鍋一杯分の油を入れて、と」

「熾火は点火済みだから、セットして。よしシンハ、かき混ぜ開始!」

「おいよっと」

「鑑定魔法で具合を見ながら水酸化ナトリウム水溶液を混ぜる、と」

 そんな訳で再び同じ方法で石鹸の素を製造する。


「あとはこれに香りの素を入れてと」

「その香りの素って何?」

「青い夏みかんを刻んで乾かし、アルコールに漬けたもの」

 乾燥したままだと香りも感触も今一つなので、アルコール漬けにしておいたのだ。

「よし、混ぜ終わったから下ろして、型につめるぞ」

「隙間が出来そうだけれど大丈夫?」

「入れた後、ちょっと熱魔法を加えて解かして、箱の隅々まで行き渡らせるんだ」

「なるほどな」

 しっとりタイプの石鹸はこれで置いておけば完成。

 次はさっぱりタイプ石鹸を塩析してグリセリンを取り出すぞ。

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