第12話 幸先がいい新体制

「……この分量でよく混ぜるとトリートメントになる。作成方法は以上だ」

 うん、我ながら説明が長かった。

 でも材料を含めてとなると省略できなかったのだ。

 皆さんの方を見ていると案の定”理解しきれない”という顔をしている。

 まあそうだろう。

 俺でも作業ごとに分解しないと説明出来ないし。

 何故かアキナ先輩だけは全部理解できたような表情だけれども。


「しかしこんなのをどうやって考えたんだい。学校の授業では当然出てこない内容だし、錬金術研究会でもこんな事を研究している訳じゃ無いよね」

 シモンさんがそう尋ねてくる。

「考え方は内容を知っていれば難しくないさ。まず水酸化ナトリウム水溶液を作るまでの工程。次に石鹸を作る工程。最後に石鹸を作った残りからグリセリンを取り出す工程。要はこの3つ」


「石鹸の作り方はかつて聞いた事がありますわ。でも水酸化何とかを使うのでは無く、確か特定の草木灰を使うと聞いたように思います」

「それだと純度が低くて反応が悪いんです」

 アキナ先輩は頷く。

「確かにあの石鹸、以前いただいた物より汚れがよく落ちましたわ。でもまあ、その辺の知識をどうやって得たかは今はおいておきましょう。ミド・リーさんの魔法でも詳しく見えないようですから」


「つつけば色々出てくるとは思うわよ。ミタキの家は店をやっているんだけれどね。一月くらい前にイエローソースという今までなかった調味料を出したり、虫除け燻火という蚊がこなくなるものを出したりしたの。ひょっとしたらその辺も……ミタキが考えたみたいね。虫除け燻火の方に至ってはシンハと一緒に作ったようだし」

 ミド・リー、頼むから勘弁してくれ。


「今はその辺はおいておこう。まずはこの商品群を効率よく作る方法だな。まずはこの中で今の工程に役立つ魔法持ちがいるかどうかだ。私は残念ながら身体強化魔法と風魔法しか使えないが」

 おっと風魔法は便利だぞ。

「ヨーコ先輩、風魔法はぜひお願いします。有毒ガスが発生する工程があるので、換気は良くしないと危険ですから」


「私は熱魔法ですね。本来は広範囲殲滅攻撃用高熱魔法ですけれど、コントロールすれば普通の熱魔法として使っても問題無いですわ」

 おいアキナ先輩なんだその危険な魔法は。

 でも熱魔法は便利だな。

「熱魔法は色々使うのでありがたいです」


「僕は工作しか出来ないよ」

 これはシモンさんだ。

「かき混ぜ器を作ろうと思っていた処です。他にも色々作りたい器具があるので是非お願いします」


「私は治療魔法メインだし、ちょっと無理よ」

 いやミド・リー、お前の魔法は実は便利だ。

「殺菌魔法を使えるだろ。あれがあると製品の持ちが大分変わる」


「私は洗浄魔法と簡単な体力回復魔法しか使えないです」

 ナカさんは剣術研究会のマネージャーらしい魔法持ちだ。

「何処でも使える便利魔法ですね。色々ありがたいです」 


「私は……ここで使えるような魔法は無いです」

 これはフールイ先輩だ。

「瓶詰めなど手はいくらあっても足りない状態です」


「何か俺の取り分が大分減るような気がする」

 これは勿論シンハ君。

「その分増産すればいいだろ。これだけいれば充分可能だしさ」

 あれ?

 最初は仕方無くこの連中を受け入れた感じだったのに。

 何か色々便利かつ色々出来そうな気がしてきたぞ。


「なら明日から早速始めませんか」

 アキナ先輩はそんな事を言う。

 俺も頷きたい。でも……

「石鹸作りの作業は時間がかかるんです。作るとすれば週末の安息日ですね」

 休日でもないとそんな時間が取れない。


「わかりましたわ。今度の安息日は予定を全部空けることにします」

「私もそうしよう」

 おいいいのか大貴族の御令嬢2名。

「それじゃ今度の安息日は朝7時にここに集合ね」

 ミド・リーもやる気満々だな。


「その前に僕が何か作っておくものはないかい」

 おっとシモンさんその言葉は有難い。

「かき混ぜ器の概念図です。こんなのが出来れば大分楽になります」

「よし、なら安息日までに何とかしておくよ」

 これで腕が疲れる重労働から解放されるぞ。


「材料の準備とかは大丈夫ですか」

「熱魔法持ちがいるなら脂の精製も当日で大丈夫ですし問題無いです」

 他の材料は柑橘刻んだのも在庫あるしレモン果汁等は当日家から買って持ってくればいいし楽勝かな。


「ならかき混ぜ器の制作料と当日のお手伝い料金、現物で先払いしてもらっていいかな。ちょうどここにあのセットのサンプルがあるんだけれど」

 シモンさんがサンプル品の残りを発見した。

 何故見つかったのだ!

 一応箱に入れて上にむしろをかけて隠してあったのに!


「おお、やっぱりあったか」

 たちまち周囲に集まる女子の皆さん。

「こんなにあれば、一人一箱取っても大丈夫だよね」

「コンディショナーは是非欲しい。あれが無いと髪が……」

「これでお母様やお姉様方に使われても大丈夫だぞ」

「私も」

 ああ、折角作った在庫品が……


「いいのか」

 そう言うシンハ君に俺はため息ひとつ加えて答える。

「仕方無い。次は倍以上作るまでだ」

 仕方無いだろう。

 あの状態の皆さんから取り上げる体力も能力も俺には無い。

 だから次こそは量産しまくって稼がせてもらうぞ。

 そう、次こそは……


「なら取り敢えず手間賃として1人1セット。あとは1個あたり小銀貨1枚1000円で私が買い取ろう!」

 おお、ヨーコ先輩が金持ち発言!

「私も買い取りたいので折半でお願い出来ますでしょうか」

 そう言えばアキナ先輩、倍でも買うと言っていたな。

「うーん、仕方無いか、それで」

「そうですね」

 他の皆様ともそれで合意成立の模様。


 前言撤回だ。

 早くも儲かりはじめた模様。

 これはなかなか幸先がいいかもしれない。

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