第10話 計画破綻の悪寒
「はい」
咄嗟に俺は返事をする。
チャンスだ。外部の人間が来た隙に脱出を図ろう。
そう思ってカバンを持ったまま事態を伺う。
「失礼する」
女子の声とともに開く扉。
見えたのは輝く長い金髪、女子にしてはやや高めの身長。
俺でも知っている学内の有名人、ヨーコ先輩だ。
彼女は準備室内を一通り確認して、そして真っ直ぐに俺の方を見る。
「あのお手入れセットを作ったミタキ君というのは、君かな?」
あっ、まずい。
俺が作ったという事は話すつもりは無かったのだ!
それがバレるという事は……
ヨーコ先輩の背後には更に女子1人。
更にその横でシンハ君が俺に向かって頭を下げていた。
そういう事だな、やっぱり。
「そうですか、あれはミタキ君が作ったのですね」
アキナ先輩も今の台詞を聞き漏らさなかったようだ。
ああ、終わった……訳では無いけれど嫌な予感がひしひしひしひしひしひし……
「他にあのセットの事を知っているのはどなたかしら」
アキナ先輩の台詞。
俺は必死にその視線に堪えていたのだが、ヘタレたシンハ君が白状する。
「俺とミタキの家族とナカさんと、あとは1年のシモンさんです」
「ならシモンさんをお呼びして、ここで関係者会議を開いた方がいいでしょう」
「僕ならここにいるよ」
更に後ろから小柄な女子が顔を出す。
ちょっと驚いた。
何処にいたのだ?
全く気配は無かったのに。
「ここにいる理由は皆さんと同じだよ。ヨーコ先輩が色々動いてくれたからこっそり後ろで様子をうかがわせて貰っていた訳でね」
「それではあまり秘密が広がらないうちにお話し合いをしましょうか」
ヨーコ先輩の台詞でシモンさんがさっと部屋の中に入って扉を閉める。
脱出失敗だ。
恨むぞシンハ君。
まあ君がいなくても充分危機だったのだけれどさ。
準備室の机は8人で囲むとちょうどいい大きさ。
そこで俺とシンハ君は女子6名の厳しい視線に曝される。
なお俺とシンハ君の席は今回は窓際だ。
上座と言って喜ぶわけにもいくまい。
これは逃げられないように用心した結果だろう。
「それにしてもここでアキナ先輩に出会うとは思わなかった」
「親同士は政敵ですものね。毎年初頭にご挨拶こそいたしますけれど」
どういう事だ。
俺はシンハ君の方を見る。
「アキナ先輩の父ウシーダ辺境伯は南部の軍の事実上トップで、ヨーコ先輩の父のニシーハラ侯爵家は南部の官僚系のトップなんだ」
なるほど、貧乏ながら子爵家の息子だけあってよく知っている。
「お父様方は色々あるかもしれませんが、私達は特にそのような事はありませんわ」
「そうだな。むしろ今回は共闘すべき機会のようだ」
「そうですわね。それではお二方にお伺い致しましょう」
アキナ先輩が俺達の方を見る。
「アレはこちらの2人で作っていらっしゃるのかしら。それとも他に何か組織があって、そちらで作っていらっしゃるのかしら」
そうか。何か他に組織があって、そこから知識を得たり現物を手に入れたりしていると考えた訳か。
確かに今まで無い物をいきなり中等学校の生徒が作るというのは考えにくいよな。
ならその辺を使ってうまくごまかそう。
そう考えたところでだ。
「2人だけで作っているみたいよ」
ミド・リーがそう言い放つ。
しまった、こいつの生物系魔法は読心とか殺菌とか色々オプション付きだった!
「先輩達はその調子で質問をお願いします。私が答えを確認しますから」
「それじゃ次の質問だ。アレは何処で作っている?」
「シンハの家の使っていなかった別館みたいね」
「他に関係者はいるのでしょうか?」
「いないよ。2人だけみたい」
「材料や製法はどこで学んだんだ?」
「ミタキが知っていたみたい。理由は何故かよく見えないけれど」
「あのセットを作っているのは2人で、他に関係者はいないんだな」
「その通りよ」
ああ、ミド・リーのおかげでほぼ全部ばらされてしまった。
もう2人だけで大儲け計画は破綻だろう。
最悪の場合俺とシンハ君はここの6人の為に製造にこき使われるんだ。
まあミド・リーがいるしヨーコ先輩もアキナ先輩も人格的に悪いという噂は無い。
だからそこまで酷い事にはならない筈……きっと。
でももう悪い予感しかしない。
「それでは製造現場に案内していただきましょうか」
「そうだな。まだ試供品が残っているかもしれない」
「残っているようよ。まだまだ」
「それは是非確保せねば」
そんな訳で俺とシンハ君はアジトへと強制連行される。
逃げ出してもどうせ無駄だ。
明日も明後日も学校がある。
そもそも俺の体力でこのメンバーから逃げられるとも思えない。
ヨーコ先輩、剣術ならシンハ君より強いらしいから。
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