第8話 試作品は出揃った

 翌日放課後に塩析した方の石鹸を温めて型に入れる。

 更に塩析で出た残り汁から蒸留でグリセリンを抽出。

 これは俺の鑑定魔法と日常魔法の熱魔法併用で何とか抽出という感じ。

 やっぱり特殊魔法の熱魔法持ちが欲しいとしみじみ思う。


 髪の毛のトリートメント、これは蒸留水とレモン汁とグリセリンとオリーブオイルを混ぜただけ。

 化粧水もほとんどトリートメントと材料同じ。

 効果は似たようなものだし、基本的には分量の違いだけだ。

 トリートメントは水7割にレモン汁多めグリセリンやや多めオイルちょっと。

 化粧水は水がほとんどでグリセリンをちょい多めに入れレモン汁がちょっとだけ。

 更に次の日に型に入れた石鹸をカットして試作品は作成完了だ。

 念の為鑑定魔法で毒性等が無いか確認をしてみる。

 鑑定魔法によると、レモン汁や夏みかんの精油の量は注意しないと紫外線に過敏な反応をする物質が出るらしい。

 ただ現状の濃度ならよほど特殊なことをしない限り大丈夫そうだ。

 べっとり肌に塗りつけてタンニングマシンを最強にして入るとか。

 そんな機械この世界には無いけれど。

 でも知らなかったな。危ない危ない。

 濃度を今以上濃くするのはやめておこう。


 結果、石鹸16個が2種類、トリートメントと化粧水がそれぞれ瓶16本出来た。

「これが完成品か」

「ああ」

「どれ位で売る予定だ?」

「どれも1個小銀貨1枚1000円で売る予定だ」

「化粧水やトリートメントは何か詐欺っぽく無いか。ほとんど水だろ」

 シンハ君の疑念はもっともだ。

 しかし俺の前世の知識が別の意見を言っている。


「こういう贅沢品はあまり安くしちゃ駄目なんだ。むしろ高い方が売れるんだな」

「そんなものなのか」

「そんなものだ」

 前世でそんな理論を読んだ憶えがある。

 贅沢品は高い物ほど売れるという理論を。


「あとは試すだけか」

「ああ。取り敢えず俺の家とシンハの家で1セット試用してみよう。あとは……誰か適当な女子いないか。家が金持ちでこういうの好きそうな奴」

剣術うちの研究会にちょうどいい先輩がいるな。2年のヨーコ先輩」

 俺も知っている学内の有名人だ。

 長い金髪に整った小さめの顔、だが有名なのは美麗な見た目だけではない。

 女性でありながらも学内最強級の剣の腕、トップクラスの学業成績。

 いわゆる完璧パーフェクト超人という奴だ。


「確かにちょうどいいな。カワ家は侯爵家だし鉱山持っているから金もあるだろう」

「他にはうちの研究会にはあまりいないな。女子は他にもいるけれどヨーコ先輩以外は女を捨てたようなのばかりでさ。強いて言えばナカさんかな。マネージャーの」

「そうか。ならそっちは2セットだな」

「ミタキはあてがあるのか」

「一応な。3セットほど」

 本命は錬金術研究会のアキナ先輩。

 ただ1人だけに渡すと残り2人に色々文句を言われるかもしれない。

 だから残り2人にもお情けで渡してやる予定だ。


「とりあえず全部1種類ずつセットにして、お試しして貰おう」

「そうだな」

 薄い板で作った箱にセットを詰め込む。

 この箱はシンハ君が知り合いに作って貰ったそうだ。

 何でも隣のクラスに工作魔法持ちの知り合いがいるそうで、そいつに頼んだ模様。

 材料費込みで1個正銅貨1枚100円の手間賃で10個ほど作ってもらった。

 

「あ、もう1セット追加していいか」

 シンハ君がそんな事を言う。

「ああ、構わないけれど誰宛だ」

「1組のシモンさん、この箱を作ってくれたし何かあったら頼むという事で」

 贈答用ではなく試供品なのだがまあいいか。

 かき混ぜ器ミキサーを作る時にお世話になるかもしれないし。

 そんな訳で俺もシンハ君も自宅用を含めて4セットずつカバンに入れる。


「これが売れるといいな」

「中身的には問題無い筈なんだ」

「それを何故ミタキが知っているんだ。石鹸以外流通していないものだろ?」

「まあその辺は蚊取り線香と同じでさ、言わぬが花って事で」

「おまえ変わったよな。蚊取り線香の時もそう思ったけれど。まあ俺としては儲かればいいけれどな」


 そう言ってシンハ君はふうっと息をつく。

「それにしても石鹸作るのって腕が疲れるな」

 あの半日の苦労を思い出したらしい。

「大量に売れそうなら専用の混ぜ器ミキサーを作って貰おう。設計図は考えてあるんだ。ただ金がかかるだろうから、あくまで大量に売れそうならだけどさ」

「1個小銀貨1枚1000円で、もしこれが試供品で無く全部売れたら正銀貨6枚6万円小銀貨4枚4000円の儲けか」

「材料費や箱代があるから実際は正銀貨6枚6万円ってところかな」

「原価を考えると随分ボロい儲けだよな」

「うまくいけば、だけれどな」


 新しい物を作るだけでも楽しいけれど、ついでに儲かってくれるともっと楽しい。

 そして既に蚊取り線香という成功した実例がある。

 何せシンハ君の取り分だけで週に正銀貨1枚1万円以上はあるのだ。

 ならシンハ君の昼食がマシになったかというとそうでもない。

 彼は貧乏性が身についているのだ。

 それは俺も同じで、相変わらず2人で俺の店の売れ残り賞味期限切れをメインの昼食としている状態。


 でももっと金が入るようになったら……

 せめて学校の食堂で昼飯に一番高い物を遠慮無く食べられるようにはなるかな。

 ちなみに金持ちな貴族とか豪商の息子とかが食べている昼食のランチセット特上は小銀貨3枚3000円

 誰かに貧乏性は治らない病気と言われたような気もするけれど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る