第7話 石鹸の製造
週休息日の午後。
大量に貰ってきた柑橘類の間引いた青い実を、シンハ君に包丁でメッタメタに切り刻んで貰う。
「石臼で潰したりしなくていいのか」
「ある程度粒が残っている方が自然ぽくっていい。でも種と内皮、あとへた部分は外してくれ。面倒なら内皮は潰した後に取ってもいい」
「わかった」
その一方で俺は石鹸作りにとりかかる。
まずは工程が多いさっぱりタイプの作成から。
今日まで熱したり漉したりして純度を高めた牛脂をボウルの中で温める。
これくらいの量を温めるだけなら俺の魔法でも大丈夫だ。
温度は70度くらいでいいかな。
次に水酸化ナトリウム水溶液を泡立たないようゆっくり加える。
これは油の量の半分よりちょい多めくらい。
鑑定魔法で最適量がわかるのが何気に便利だ。
あとは温度を保ったまま、ひたすら混ぜるだけ。
混ぜて、混ぜて、混ぜて、混ぜて……
混ぜているうちにだんだん腕が疲れてきたぞ。
熱魔法も使いっぱなしだしさ。
「すまんシンハ、ちょっとこれ混ぜるの頼む」
「わかった」
「泡立たないようにな」
「承知!」
そんな訳で混ぜること概ね1時間。
色が白っぽくなりとろっとしてきた。
「よし。あとはこれくらいの温度で暫く置いておく。次の準備だ」
ちなみに次も全く同じ作業だ。
70度で混ぜて、混ぜて、混ぜて……
白っぽくとろっとしたら温度一定で放置だ。
「石鹸作りって腕力を使うんだな」
「今度誰かにかき混ぜ器を作って貰おう」
ハンドルを回せばぎゅーんと回るタイプなんてあると楽だ。
まあその辺はあとで考えよう。
「これがマッシュポテトくらいの固さになったら次の作業だ。食塩水を加えて余分な成分を抜いて石鹸分だけを取り出す。まああと1時間位してからかな」
「時間もかなりかかるんだな」
「これも完成は来週の休息日くらいだな。そして次の週に使い勝手とか効果を体験して貰って、晴れて販売だ」
「いずれにせよこの次は混ぜるのがもう少し簡単になるような方法を探してくれ」
「そうだな」
そんな事を話していると先に作った方の石鹸がいいかんじに固まりだした。
よし、塩析をするか。
取り敢えず石鹸の3倍くらいの食塩水を作る。
濃さは飽和状態の半分位でいいか。
つまり飽和食塩水を作って倍に薄めるという感じで。
出来た食塩水と石鹸を90度くらいにして混ぜまくる。
石鹸全体が食塩水と触れるように、全部溶け込むように。
ぷるぷるした石鹸分が水と分離しはじめた。
うんうん、製作は絶好調だ。
「こっちはとりあえずこのまま放置。明日の放課後、冷めて固まったら作業する」
疲れた腕を休めたりマッサージしたりしているうちに、もう一つの石鹸も固まりはじめた。
これは大さじ1ほど柑橘類を刻んだのを入れてかき混ぜて完成。
予め木で作っておいた型に隙間の無いようにみっちり詰め込む。
ヘラで上をならしながら平らにして完成だ。
こっちも乳白色に緑色の粒々が混じっていてなかなかいい感じ。
熱で表面を綺麗に整えたから売り物みたいだ。
まあ売り物のサンプルなんだけれどさ、実際に。
「これはあと2時間位すれば切って石鹸の形に出来る。でもそろそろ日が暮れるから今日はここまでだな」
「他に作ると言ったものは来週か?」
「塩析で出た残留物が必要だからそうなる。でもあれは材料があれば簡単に混ぜるだけで作れるし問題無い」
「しかし半日ひたすら混ぜているような感じだったな」
「それも来週までには対策を練っておくよ」
磁石と鉄棒、それに何かでラミネートかけた銅線があればモーターが作れる。
でも適切なラミネートの材質が今は思い浮かばないな。
ならハンドルを回すタイプを作って貰うしか無いか。
手持ちサイズに拘らなければ工作関係の魔法持ちなら作れるだろう。
取り敢えず家に帰ったら設計図を描こう。
明日の放課後に工作関係の研究会に持ち込めば今週中に出来る筈だ。
あとは本格的に作るとなると、大鍋か桶が結構な数必要だ。
桶だと常に魔法で温めなければならないから、鍋とコンロを使えれば楽かな。
今日は俺も温度調整の魔法を使いっぱなしでかなり疲れた。
これ以上の量を魔法で加熱するとなると日常魔法では厳しい。
特殊魔法で熱を扱える魔法使いが必要だ。
姉貴が特殊魔法レベルの熱魔法持ちなのだが、店のこともあるし頼みたくはない。
でもグリセリンを蒸留して分離させるの、俺の魔法では少量が限界だ。
あと品質保持という意味では殺菌魔法もあった方がいい。
これも姉貴の持ち魔法だが……以下省略。
まあこういう事で考えるべき事が多いのはいいことだ。
いろいろ楽しめる。
俺はシンハ君と別れ家に向かって歩きながらも、明日の手順とか改良点とかをずっと考え続けていた。
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