第1章 次の金儲け案

第6話 次の製作品決定

 硫黄とか亜鉛板、胆礬とかの試薬類を毎日少しずつカバンに入れて学校から搬出。

 更に陶器製のビーカーやら蒸留用のフラスコとかの器具類を小遣いで購入。

 裏口と別館は直結しているからシンハ君の家の人に会うことも無い。

 家の人は表口と勝手口を使い、別館を通る裏口は使わないそうだから。


 錬金術研究会の時と同様、まず最初に作ったのはダニエル電池。

 原始的だが比較的安定した出力を出してくれる電池だ。

 電池のために硫黄と硝石で硫酸を作成。

 胆礬の青色できれいな部分だけを削って溶かせば硫酸銅水溶液の完成だ。


 あとは素焼きのコップと硫酸、硫酸銅水溶液、亜鉛、銅板を組み合わせればダニエル電池、完成。

 これで食塩水を電気分解すれば水酸化ナトリウムが出来る。

 ただ単に電気分解をしただけでは水酸化ナトリウムと塩素が反応してしまう。

 だから薄い素焼きの板を生活魔法で作って隔壁とし、プラスとマイナスを分離。

 もっといい隔壁用の素材があったら後で変えよう。

 電気分解で出た水素と塩素を反応させて水にとかせば塩酸も出来る。

 とりあえずはこういった基本的な試薬類をまず生産しよう。

 こいつらは何を作るにも必要になるから。


 道具をそろえて、試薬も作る。

 2週間後には大分実験室らしくなった。

 水酸化ナトリウムは既に大瓶7本分ほど。

 塩酸も中瓶2本分は出来たし電池用の硫酸も大瓶1本分は在庫がある。

「怪しいよな。正に錬金術師のアトリエという感じだ」

 シンハ君はそう言うけれど俺は錬金術師ではない。

 一番近いのは化学者だろうか。

 自分で研究している訳では無く過去の記憶を使っているだけだけれども。


「そろそろ次の商品を考えないか。今作っているのは売り物じゃなくて材料だと聞いているけれど」

「そうだな。そろそろ具体的な何かを作りたくなってきた」

 俺もそろそろ何か製品になるものを作りたい。

 さて、今できているのは水酸化ナトリウム、塩酸、硫酸。

 これらの試薬類と簡単に手に入るもので作れるものというと……

 そうだ、水酸化ナトリウムと油があれば簡単に作れるものがあったぞ。


「よし、次は石鹸だ!」

「石鹸? 貴族や裕福な商人なんかが顔を洗ったりするのに使っている奴か」

 シンハ君は意外そうな顔をする。

「ああ、それだ」

「あれって輸入品で、ずいぶんと高価なんだろ」

「だからいいんだ。その分儲けられる」

 高級品なら実験室で作れる程度の量でも売り物になるし利益も出る。

 でも先発品がある中で選んで貰うには安さでは駄目だ。

 何かアドバンテージが無いと……そうだ!


「どうせ作るなら2種類作るぞ。お肌や髪に優しいしっとり石鹸と、汚れや脂分をしっかり落とせるさっぱり石鹸」

 さっぱりの方は塩析して純度を高くしてやる。

 しっとりは塩析しないでグリセリン等を残し、何か香料でも含ませてやればいい。

 柑橘類の皮でも乾かして刻んで入れればいいだろう。


 必要になる材料は、水酸化ナトリウムの他には

  ○ 素になる油

  ○ 香料になるオレンジの皮

  ○ 塩析するなら食塩

というところだ。うん簡単。

 油はオリーブ油がいいけれど高価だから牛脂でいいだろう。

 安いし実はオリーブ油製より肌にいいと記憶にある。

 更に硝酸があれば硫酸も使ってニトログリセリン……は今は考えないでおこう。

 ドカンと一発やってしまってはまずい。


「更に副産物でトリートメントとか化粧水とか作ってお肌にいい高級品という事で売りだそう。そうすれば数の少なさをセット単価の高さでカバー出来る」

 塩析した残存物からグリセリンを取り出せば化粧水も作れる。

 髪の毛用のトリートメントはクエン酸メインであとは化粧水と同じ。

 おお、石鹸を考えるだけで色々な商品群が一気に出来る。

 しかも石鹸以外はこの街に無い物ばかり。

 うまくいけば大もうけの予感だ。

 量産するとなれば製造手順が若干ややこしいが仕方無い。

 その辺は後で考えよう。

 まずは実験室規模で試作するところからスタートだ。

「お肌と髪の毛のケアセットとして石鹸2種類、トリートメント、化粧水の4つを一気に作るぞ! 美容関係なら多少高くても効果さえあれば買ってくれるだろう」


「そんなに一気に作って大丈夫なのか?」

「一気に作るからこそ価値が上がるんだ。材料の面を考えてもセットで作るべき商品群なんだこれは」

「そんなに種類作って材料は大丈夫なのか」

「ああ」

 牛脂も食塩も実は俺自身の家で売っている。

 クエン酸は柑橘系のジュースで代用すればいい。

 あとは香料代わりの柑橘系の皮。

 ジュースを混ぜるより粒々が入っていたほうが自然感があっていいだろう。

 休日にシンハ君と一緒に郊外の農家を回って間引きとかした柑橘の果実を貰ってくれば手に入る。

 今はちょうどいいシーズンだしさ。


「今週の休みで間引きした柑橘類の青い実をあちこち回って貰ってこよう。それ以外の材料は揃ったも同然だ」

「それで大丈夫なのか」

「ああ」

 他の香料も混ぜるとかラインナップを広げるアイディアは幾らでも思いつく。

 でもまずは試作品の作成だ。

 次は一連の生産設備の見直しと再構築。

 そして先行量産品の作成とテスト販売。

 最後に量産して売りさばいてウハウハだ!

 まあそううまく行かなくても少しずつなら売れるだろう。

 それにこういった物を作る事自体、実はかなり楽しいから。

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