第5話 絶好調な出発

 それから2週間後。

 俺の小遣いは恐ろしい勢いで増え始めた。

 勿論マヨネーズと蚊取り線香が売れまくったおかげである。


 なおマヨネーズは『イエローソース』。

 蚊取り線香は『虫除け燻火』という商品名になった。

 この名称に俺は関与していない。

 マヨネーズとか蚊取り線香という名前がどうしても頭から離れなかったからだ。

 なお販売品は製造方法を秘匿する『逆鑑定魔法』をきっちりかけてある。

 これは鑑定魔法持ちなら使える魔法で当然俺も使える。

 これがあれば製品から製法を分析されて真似される可能性が低くなる訳だ。


 マヨネーズと蚊取り線香それぞれの製造場所が必要。

 そんな理由で俺は作業に使っていた蔵を追い出された。

 この蔵と隣の蔵でそれぞれ人を雇い、マヨネーズと蚊取り線香を量産するそうだ。

 なお蚊取り線香の材料は全部父母に譲渡した。

 代わりにこの材料で作った蚊取り線香は、一巻正銅貨1枚100円売れるごとに俺に小銅貨3枚30円が入る事になっている。

 マヨネーズと合わせてもうウハウハだ。

 勿論うちの家もウハウハ状態である。

 これらの商品のおかげで店に客が増え、他の物まで売れているので余計にウハウハである。


 なお協力者であるシンハ君には、小銅貨3枚30円のうち1枚10円を渡すことにしてある。

 奴の体力が無いと完成出来なかったからな。

 その辺はちゃんと分けてやらないと申し訳無い。

 最初の一週間分の取り分正銀貨1枚1万円ちょっとを渡した時、奴は目を丸くしていた。

 でもまだまだそんなものじゃない。

 生産が本調子になればもっともっと儲かる筈だ。

 材料もシンハ君のおかげで充分に確保してある。


「何か凄い事になったな、あの件」

 シンハ君には花の名前や商品名は言わないようにと固く言い聞かせてある。

 だからあの件としか言えないけれど、俺と奴との間はそれで通じる。

「まだまだこんなものじゃない。これからもっと色々作ってもっと儲けてやる。ただ俺の体力じゃ資材収拾とか製作作業とかで出来ない事が色々あるからさ。その辺はまた宜しく頼む」

「ああ、こっちこそ頼むな」


 そう言えばさしあたってシンハ君に頼みたいことがあった。

「今回の件で俺が使っていたあの蔵を追い出されてさ。色々作業する場所が必要なんだけれど、シンハの家に空いている場所ってあるか」

「いくらでもあるぞ。ボロだけれどな」


 うん、よく知っている。

 子爵様であるシンハ君の家はかなり広いのだ。

 しかし貧乏故に使用人もほとんど使っていないから部屋余りまくり。

 別館に至ってはまるごと使用せず放置されている。


「じゃあすまん。今度から手頃な場所を貸してくれ」

「ああ。親父に言っておくよ。使っていない別館を貸せってさ」

 大変有り難い。

 シンハ君の家の別館は街側に面していて家から近いし。

 色々な意味で便利で有り難い奴だ。


「ところでこれから何か作るあてはあるのか?」

「今のところまだ考案中。今回みたいに材料が目の前にあれば作りやすいけれど、そうでないものは色々工夫して材料を調達しないとな」

「まずは材料集めか」

 それも重要だけれどそれだけじゃない。

「何をつくるか何なら売れるか、その辺も考えないとな」

 選択肢はいっぱいあるのだ。

 だが材料もなければ先行品もないこの世界では、何を選ぶべきかすら見えない。


「難しいな」

 シンハ君はそう言った後、あっさり次の台詞を付け加える。

「まあ頭脳労働はミタキに任せるけれどな。俺にはあわない」

「簡単に諦めるな」

「自他共に認める事実だろ」

 おいおい、まあそうだけれどさ。


「まあ必要になったら言ってくれや。別館を空けたり色々するから」

「頼むな」

 そうだな、学校の実験準備室にある設備のうち一部を移動してもいいかな。

 作成中の試薬とか集めた材料とか。

 そうすれば錬金術研究会の連中にも色々ばれないですむ。

 秘密でこっそり商品開発できる訳だ。

 よし、明日から少しずつ学校の設備をシンハの別宅に移動させよう。


「悪いが明日の放課後から使っていいか」

「いいぞ、なら今日案内する。ついでに裏口の鍵も渡しておこう」

 本当に色々頼りになる奴だ、シンハ君は。

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