第13話 魔法使い
便宜上、延命を望む側を白、としよう。
望まない側を、黒、としよう。
(ああ……ここで仮定するまでもなく、もうそうなっていますね。)
黒の意思は、宇宙の滅びを自然任せにすること、ではなかったのである。
むしろ積極介入して、能動的に破壊すべしという考えだったのである。
そうした思考に至った理由については、作り主である神自身も、最初は理解出来ていなかった。
科学の産物である、AIには。
黒の意思がそう至った理由とは、現在稼働している仮想世界の前提条件が、魔法の存在する世界であるためだ。
「奇跡」が現実世界にフィードバックされること、その可能性を不安視したのである。
荒唐無稽とは理解しつつも、ゼロとはいえないその可能性を。
神が作り出した白と黒は、あくまで思想の対立のため分けたに過ぎず、互いを攻撃することは不可能だった。
二人は議論で戦うしかないわけであるが、当然、お互い相容れられるはずがない。
黒はいつしか、議論をする気すらなくしていた。
白と離れた。
いつかくる時に備えて、自分の分身を作り出した。
早く宇宙を消滅させたいと願うからである。
早く自身を消滅させたいと願うからである。
奇跡を生むのが、魔法である。
だが、仮想世界における魔法という奇跡が、現実世界へと直接的な影響を及ぼすことなどは、ほぼ有り得ないだろう。
思想的な影響を奇跡と冠するなど、概念的な奇跡ならばともかく。宇宙の法則を物理的に覆すような、そんな奇跡は起こるはずがない。
だが、可能性ゼロではない。
だから黒は、白と袂をわかち、機会を伺い続けたのである。
奇跡を起こすかも知れない仮想世界を、破壊する機会を。
破壊さえ出来れば、後はただ待つだけでよい。
数十億年という、ほんの一瞬を待つだけで、万物にただ心地のよい、永遠の無が落ちてくるのだから。
だがすぐに黒は、常識的な想定、つまり結局は奇跡など起こるはずはないと存在否定していた自分の考えの甘さに気付くことになった。
超次元量子コンピュータのソフトウェアにとって明らかなバグとも呼べる、仮想世界の中で起きた大爆発。
それが、
この数千億年の間、起こらなかったことが、起こるはずのないことが、起きてしまったのである。
この現実世界に、魔法使いが生まれたのだ。
陽子崩壊を待つばかりであった、この現実世界の闇の中に。
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