第11話 誰がために

 その都度、行なったこと。

 それは、世界創生の前提環境に変化を加えること。


 簡単にいうと、「もしもの世界」だ。


 神は少しずつ前提環境をずらした、「もしもの地球」を作り出し続けたのである。

 仮想世界が滅んで消滅する、その都度。


 数十回目にして、ついに西暦2000年を突破することに成功した。

 もし人類が存在していたら、そんな子供じみたと試みることすらなかったかも知れないが、「魔法の存在する世界」、それがその時の前提環境であった。


 夢と恐怖、本能的な信仰心などが絶妙なバランスで無限空間記憶層アカシツクレコードを刺激したものなのであろう。

 突破の理由について、神はそう考えた。


 2001年、

 2002年、

 ……

 2021年、

 2022年、


 現実世界と同期された、仮想世界の時間の流れ。

 しかし、ここまでくれば、加速度的に時が流れているのと同じだった。

 ここまで、数十億年を何度となくやり直したのだ。

 一年など、一瞬のうちにも入らない。


 2041年、

 2042年、


 超次元量子コンピュータが作り出された国、日本では、元号令和の時代に入っていた。


 令和二十二年、

 令和二十三年、

 令和二十四年、


 この仮想世界において、ついに前人未到の段階に達したのである。

 ようやくにして、仮想世界内の地球が、動き出したのである。


 だが、誰のためと考えるならば、これほど虚しいこともないだろう。

 陽子崩壊による宇宙の終焉という現実は、目前まで近付いていたし、対策のために超次元量子コンピュータや人工惑星を作り出し送り出した地球も、普通に考えて存在するはずがないからだ。


 ついに時の針が進んだことは、神にとって一抹の安堵ではあろうが、同時に、最初から抱いていた疑問が自己内において再定義されることにもなった。


「そもそも、ここまでして宇宙の延命は必要なのか。結局は、地球に発生した人類のためだけだったのではないか」


 その人類も、いまやどこにいるというのだ。

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