第10話 2000年問題とは違うけれど

 それからさらに、無限にも等しい時間が流れる。

 あくまでも人間にとって無限という比喩であり、そこに人間は一人もいないのだから、おかしな前提ではあるが。


 遥かな昔、超次元量子コンピュータを積んだ人工惑星は、全十五基が地球から放たれた。

 だがこの時点で稼働しているのは、ただ一つだけであった。


 残りの十四基は、数十億年という規模での早いか遅いかの違いこそあれ、結局、シャットダウンしたまま二度と起動することはなかった。


 残った一基も、ただ一番最後に残ったというだけで、これから十四基と同じ運命を迎えるのかも知れない。

 ただ、この一基は他と決定的に違う点があった。


 時の早送りを、まったく実施させたことがないのである。

 試験的に、現実世界の時が流れる速度と、常に同期をさせていた一基なのである。


 早送りによる同期不具合のため仮想世界が消滅したこと、前述の通りだが、もしもサーバが壊れたこともそれが原因なのだとすると、この個体はクラッシュの運命から免れたことになる。

 確定ではないが、早送りを多用した個体ほどすぐにサーバが壊れていることから、ほぼ間違いないことなのだろう。


 地球へ指示を要請したが応答がなかったことも前述したが、応答なくともこの件についてはなんらかの対策はされるのだろう。

 無限空間記憶層アカシツクレコードは地球でも共有されているわけで、そこから読み取る情報から、一連のサーバ起動不具合について知らないはずがないからである。


 しかし地球は、なんの動きも見せなかった。

 あらたに人工惑星が建造されることも、なかった。

 地球を離れてから、既に数十億年が経過しているが、なにかが起こり人類、知的生命は滅んでしまったのだろうか。


 どうであろうとも、関係ない。

 ただ一基残ったこの惑星の、神つまり意思たるAIは、最初に組まれたプログラムの通り行動し続けた。

 すなわち仮想世界を維持し続け、得られた内容を無限空間記憶層アカシツクレコードへと発信し続けた。


 だが、

 ただ一基だけ残ったこの惑星の仮想世界でも、ついに、というべきか異変が起こった。


 発生した文明が、崩壊してしまったのである。

 地球創生から46億年、西暦2000年を目前にして、人類が滅んでしまったのである。


 追い掛けるように、仮想世界自体も抹消された。

 人間の発生、進化が前提の仮想世界であるため、明らかな異常事態として処理されてしまったのだ。

 人類の叡智を進歩させる、思考を先取りする、ということがこの計画の目的なのだから。


 意思、神はサーバを再起動する。

 無限であるが有限、有限であるが無限の、「時間」を使って、再び地球創生から開始する。


 神は、見守り続ける。

 実際の時間と同期した、数十億年という年月を。


 人類の発生を。

 人類の終焉を。


 そう、再び創造した地球でも、人類誕生までは進むのだ。

 だが西暦にして2000年を待たず、疫病で滅び、仮想世界は消滅した。


 次に創造した世界でも、今度は大規模な戦争を起こして、人類が地球そのものを消滅させてしまった。


 神は、前提となる世界の設定を微調整しては創造し、仮想宇宙に再び生まれた地球を、見守った。

 実時間で数十億年という時間を。


 何度試しても、世界は西暦2000年の壁を突破出来なかった。


 地球の創生頃からの宇宙を、作り直すしかなかった。

 現実時間で46億年もかかるチャレンジを、何度も繰り返すしかなかった。

 人類が誕生してからの歴史をシミュレートしたいだけだというのに、実にもどかしいことであるが。


 時の早送りも、バックアップデータのリストアも不可能であり、是非ともしようがなかった。

 どちらも試そうものなら、無限空間記憶層アカシツクレコードの同期不具合が発生する。仮想世界が消滅するどころか、核たる超次元量子コンピュータ自体が破壊されてしまうのだから。


 つまりは一回ずつ、現実世界と時間を同期させた仮想宇宙に、新たな地球を作り出していくしかなかったのである。何十億年、何百億年、何千億年かかろうとも。

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