第05話 神に誓って約束するよ(私が神だがね)

 予想が確信に変わり、ぐらり、アサキは倒れそうになった。


「液体が超高圧で、輪の内側へと噴出されるんだ。薄い鉄板をも切り裂く威力。強引な突破などしたら、まあ、たぶん作動しちゃうのかなあ」


 他人事のようにいう、だれの淡々とした声。


「あ、あの、ど、どうすれば……」

「強引なことをすれば、といっただろう。なんにもしなければ、作動はしないんじゃないかな。イスラエル製だし、そうそう故障もないだろう」


 また他人事的にいいながら白銀の魔法使いは、壁に突き刺さっているアサキの剣を引き抜いた。

 すっと腕を持ち上げると、剣の切っ先を、涙目で狼狽している赤毛の少女へと向けた。


「……さっき、カスどもの誰かがいってたけど、確かにわたしは逃げ切れないだろうな。ならば、せっかくの計画を、神の思想を、壊し汚した恨みだけでも晴らしておきたい。というのが、道理というものではないか、ね!」


 にやりにやりと笑っているまま、予備動作なく剣を持った腕が動いた。


「うぁ!」


 アサキの悲鳴。苦痛に顔が歪んでいた。

 魔道着ごと、斜めに胸を切り裂かれたのだ。

 血が吹き出して、がくり膝が落ち掛けるが、片足を前へ出してなんとか転倒を堪えると、顔を上げた。


「アサキ!」

「アサキちゃん!」


 カズミとはる、二人の叫び声。

 親友の窮地に青ざめ、窮地を救えないことにもどかしそうな、悲痛な表情だ。


「大丈夫……わたしなら。……ただし……もしも修一くんたち二人に、なにかがあったら、絶対に……あなたを許さない」


 カズミたちへ向けた健気でささやかな笑みは、視線の移動と共に激しく険しいものへと変化して、恐ろしい顔で至垂を睨んでいた。

 それは至垂への恨みというよりは、自身への決意。

 絶対に二人を助けるんだ、という迷いのない表情だった。


「ああ、神様に誓って約束するとも。きみが優等生でいてくれれば、最終的には必ず返すことを、ね!」


 袈裟掛けの一撃。


 べきりとなにかが折れる音、そしてアサキの悲鳴、苦痛に歪む顔。

 肋骨が折れ砕けた音であった。


 苦悶の表情、先ほど以上であるが、白銀の魔法使いは同情すること一切なく、さらに一撃また一剣と、手にした長剣で切り付けていく。

 赤毛の少女へと、同情どころか喜悦の笑みすら浮かべながら。


「至垂! てめえ、あたしと人質役を交換しろ! おばさんたちを解放してやれ!」

「う、うちもじゃ! うちがその変な輪っかをはめてやる! おばさんたちは、もう一般人じゃろ! 卑怯者!」


 遠目で見ている魔法使いたちの中から、カズミと治奈が声を張り上げている。

 彼女たちは修一と直美と面識があり、なおかつアサキとも親友の仲であるため、至垂の残虐な振る舞いに我慢が出来なくなったのだろう。


「きみたちはバカだなあ。令堂くんは、きみらを殺したくなくて、同じことするよ」


 提案を、白銀の魔法使いは鼻で笑った。


「そんなことねえ。戦って貰う! あたしらがどうなろうとも、アサキにお前をぶっ潰して貰う! つうかそんなチンケな輪っか、あたしなら根性でぶっ壊してやんだよ!」

「ははっ、またの機会があったら、人体実験への協力をお願いするよ」


 軽口をいいながらも、白銀の魔法使い至垂は、アサキへと長剣を振り、切り付け続けている。


 がつり、ざくり、

 アサキの肉体が、切り刻まれていく。

 もう肌色の部分などどこにあるかというほどに、全身が血みどろであった。


「令堂和咲! もう、待つのも限界だ! 家族への思いを無駄にするようで申し訳ないが、世界を救うため!」


 広作班リーダー寿ばるが、叫びながら飛び出した。

 右腕がないため、腕に盾を装着している側の左手で剣も持って。

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