第14話 みんな、ヴァイスタになるとええよ

 机に置かれたリストフォンから、映像が二つ、空間投影されている。


 一つはコンピュータの情報映像。

 モニターだ。


 もう一つは、操作のためのキーボード。

 映像なのに物理キーボードと同じ打鍵感が得られる、最新型だ。


 投影された画面をタッチしたり、投影されたキーボードでタイプしたり、みちおうは先ほどから自室にこもって、ずっと操作をしている。


 学校から帰って制服を脱ぎ捨てただけの、半裸の状態で。


 二十インチの空間投影モニターには、女生徒たちの顔や全身の画像、在席する学校についての情報が表示されている。

 

 埼玉県すぎ町立ひろ中学校。

 魔法使い所属人数 九人。

 Bクラス適合者 五人。

 Aクラス適合者 なし。


「ふむ。Bクラスばっかやなあ。……まあ、選外のあたしは、C以下ちゅうことやろし、他人の文句もいえへんけどな。次は……」


 机に頬杖をつきながら、空間キーボードをタッチして画面を切り替える。


 東京都 私立しゆうめいかん学院附属中学校。

 魔法使い所属人数 五人。

 Bクラス適合者 四人。

 Aクラス適合者 なし。


 また、キーボードをタッチし画面を切り替える。


 千葉県市立第二中学校。

 魔法使い所属人数 十人。

 Bクラス適合者 四人。

 Aクラス適合者 六人。


「ここはまあまあやな。……次は」


 千葉県市立第三中学校。

 魔法使い所属人数 四人。

 Bクラス適合者 一人。

 Aクラス適合者 三人。


「お、ここ、ええんちゃう? あれ、確かここ、ぐちのおっちゃんが校長やっとるとこや。……ええと、なんやて、はあ、卒業でごっそり抜けて人手不足かあ」


 全部で四人ちゅうのが少な過ぎて、確率的にアレやけど、でも、Aもおるのやし、ここは有力候補やな。

 樋口のおっちゃんという知った顔もおるんで、やりやすいしな。


「明木……あきらぎ、と読むのか。あきらぎはるな……ははっ、平和ボケしてそうな顔しとるわ。おおとりせいか、こちらも。なんやお嬢様って感じやねんなあ。へいけ、武士か。つうか顔が子供やん。あきばかずみ、ごっつ凶悪そうな顔をしとるわあ。こいつらこんなんでホンマにAなんかなあ。まあええけどね」


 次。

 画面を切り替える。


 千葉県うらやす市立どり中学校。


 目ぼしいのはなし。

 次。


 茨城県とり市立おしきり中学校。


 茨城県つちうら市立土浦第七中学校。


「みんな、いかついヤンキー顔やなあ。すげえな茨城って。ほな、次は……」


 宮城県せんだいあお区立まえぼり中学校。

 魔法使い所属人数 十人。

 Bクラス適合者 九人。

 Aクラス適合者 一人。


 非所属(魔法使い適正者)

 特Aクラス 一人。


「はああああああ? なんやの、これ」


 応芽はつい身を乗り出して、画面を覗き込んでいた。


 特Aが非所属て……

 まだ魔法使いになっていない、化物級の魔力器を持つ者がおるんか。


「適正判断が出たばかりってこと? どんなやつや、こいつ」


 空間画面をタップし、特Aクラスとされている者の情報を表示させる。


 赤毛がピンと跳ねている、おっとりした感じの女子の顔が表示された。


 令堂 りょうどう

 和咲 あさき

 二〇三二年(令和十四年) 生まれ 十三歳


「こんな、とろそうな、アリも殺せんような顔でなあ。宝の持ち腐れちゃうの? あっ、さっきの千葉の、樋口のおじちゃんとこ、こいつそこに行かせたらええんちゃう?」


 もともとこいつ、転校を繰り返しとるみたいやし、なら慣れっこやろ。


「特使様の権限や。よし、令堂和咲、お前は千葉の学校に転校や!」


 ははははっとハイテンション気味に笑いながら、先ほどの天王台第三中学校の魔法使いを画面に並べ、そこに令堂和咲を加えてみた。


 明木治奈

 昭刃和美

 大鳥正香

 平家成葉

 令堂和咲


「あたしが行くまでに、魔力の使い方をたっぷり鍛えて貰っとくとええよ、令堂和咲。……しっかしこいつら、こうして顔を並べてみると、まあホンマにことごとくがちょろそうな顔やなあ」


 応芽は部屋に一人、楽しそうに笑い声を上げると、長いため息を吐き、あらためてニヤリ笑みを作った。


「ヴァイスタに、させて貰うで。みんなアホ面すぎて、ちょい気の毒な気がせんでもないけど」


 でもま、東京モンの誰がどうなろうと、知ったことか。

 あたしのために、みんな、ヴァイスタになるとええよ。


 いずれあたしもそっちへ行く。

 じわじわと、絶望へと追い詰めたるからな。


「楽しみに、しときや」

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