第07話 カズミの魔道着
「殺さへんよ」
しんと静まり返った空間に、響くのは、
「自分、
剣の切っ先が、カズミの喉元からすーっと、肩、腕、皮膚すれすれをかすめ移動していく。
カズミは、くっと呼気に似た呻きを発しながら、左腕のリストフォンを庇うように、右手のひらで覆い押さえた。
「そないなもん、守ってどうなるん? ひょっとして、変身すれば今度こそは勝てると思っとる? 今のあたし相手に、そんなんガラクタやで。たったいま味あわされたばかりの現実を、覚えてへんの?」
「覚えてる。だからだよ」
カズミは、可笑しみ隠すかのように、微かに唇を釣り上げると、
「アサキ、お前が使え!」
いつの間に外していたのか、自分のリストフォンを、思い切り投げた。
反対側の壁際で腕を治療していた、アサキへと向かって。
アサキは小さく頷くと、受け取ろうと前へ走り出した。
「小賢しい真似!」
応芽は、振り返ると走り出し、そして跳んだ。
落下地点へ先回りするかの一直線で、両手に構えた剣を、斜めに振り下ろした。
カズミの投げたリストフォンを、破壊するつもりであったのだろう。アサキのものを、そうしたように。
だが、コンマ数秒わずかに早くアサキが飛び込んで、空中のリストフォンを受け止めていた。
受け止めた瞬間、頭を低くして応芽の剣をかわしていた。
応芽のわきを、ダイビングで抜け、ごろごろ床を前転。立ち上がりながら、手に掴んだ物を素早く左腕に装着すると、頭上へとかざした。
「変身!」
アサキの身体が、クラフトから発せられる眩い輝きに包まれた。
逆光による、真っ黒なシルエットの中、
衣服が、綿毛が弾けるかのごとく、すべて溶け消えていた。
漂う細い銀糸が寄り集まって、布状になり、赤毛の少女の身体を覆う。
つま先から布が裂けて、ぺりぺりめくれながら黒い裏地が、太ももまで裏返ると、めくれた先端部分は、腰帯のようにしゅるり巻き付いた。
黒いスパッツ姿、という下半身の見た目形状である。
頭上に浮かんでいた巨大な塊が、弾けてバラバラになると、身体の周囲を回りながら、すね、前腕、胸へと防具として装着されていく。
続いて頭上から、袖無しコートとでも呼ぶべき形状の、硬そうな服が、ふわりと落ちてくる。
上半身をしなやかに前へと傾けながら、腕を背中側に翼のように跳ね上げる。落ちてきた服がするりするりと、まるで生き物のごとくなめらかに、袖に腕が通されていく。
前傾姿勢から戻りながら、腕を下ろしたアサキは、ゆっくりと目を開いた。
ぶん、ぶうん、と空気を焦がしそうなほどの勢いで後ろ回し蹴りを連続で放ち、魔道着を身体に馴染ませると、だんっ、と激しく地面を踏み鳴らし、拳を力強くぎゅっと握った。
「
そこに立つのは、二本のナイフを持ち、青い魔道着を着た、赤毛髪の少女の姿であった。
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