第08話 ミニスカートの魔法使いたち

魔法使いマギマイスターあき!」


魔法使いマギマイスターきよう!」


 はるたち第三中学校に続いて、第二中学校の魔法使いも全員変身完了である。


「みんな短いスカートじゃのう。……激しく、動けるんじゃろか」


 横一列に立つ第二中の魔法使いたちを見ながら、あきらはるが、腕を組み小首を傾げ、難しい顔をしている。


 そう、治奈のいう通り、第二中の魔法使いたちは、みな、魔道着がふわふわしたスカート型なのである。

 裾にはフリルもあり、まるでステッキやバトンが似合う、戦わない系の、もしくは愛のパワーを飛ばして戦う非接触戦闘系の、古いアニメの魔法少女だ。


 治奈の呟きが聞こえたようで、二年生の一人であるほうらいこよみが、


「大丈夫大丈夫、中はショートパンツだよ」


 自分のスカートの裾を両手で掴むと、微塵の躊躇いもなく、幼女のオシッコみたく胸までめくり上げた。


「見せんでええわあああああ! 少しは恥じらえ!」


 治奈は、顔を真っ赤にして怒鳴った。


「えー、意味が分かんなーい。中はショートパンツだって、いってるのにい」

「ほじゃけど、ほじゃけど、外はスカートじゃろ!

「だから、中はショートパンツだって! ノーパンだったら、ちょっとは分かるけどさあ」

「ほいでちょっとだけか!」


 もうええわ。と、諦めた顔で治奈は、ぷいと横を向いた。

 横を向いたら、へいなると目が合った。


「ハルにゃんは、例えハニワでも、めくられたら恥ずかしいと思う性格なんだあ」


 ハニワとは、女子中高生が、制服スカートの中にジャージズボンを履く、冬場に見るあれである。


「それが普通じゃろ」

「ナルハはねえ、ズボンはいてたら平気だけどなあ」

「はいはい、そうなんでございますねえ」


 ははは、と乾いた声で笑っていると、横からカズミが参戦だ。


「ナル坊はチビっ子幼稚園児で、裾の位置があまりに低いから、誰もめくる奴なんかいないから、憧れがあるんだよ。いや嫉妬かな」

「そんなことないよお! いや確かに実際、めくられたことはないけどお、でもチビっ子だからじゃないよお!」

「いえ、チビっ子だからでーす」

「そだことなあい!」


 風船やお餅みたいに、成葉のほっぺが、ぷくーーーーっと膨らんだ、瞬間をカズミが二本の人差し指でつついて潰した。


「わはは、風船爆弾大爆発う!」


 二本の指を差して大笑いだ。


「いい加減にしとかんと! 成葉ちゃんよりも、カズミちゃんの方が、よっぽど子供じゃけえね」


 と、注意し本人へと愚痴をこぼす治奈であるが、しかし、


「第二中ってさあ、よく見ると靴とスカートの色が学年で統一されてんだな。なんか上履きみてえだな」


 人のいうこと全然聞いてないカズミである。


「おっ、昭刃ちゃん、よく上履きと同じ色だと分かったねえ。おしゃれかつ合理的でしょ」


 腰に手を当て、得意げに微笑むのは、よろずのぶである。


「はああ、ほんとに上履き色なのかー」


 ずるーっ、治奈とカズミは脱力して、お互いの身体にもたれかかった。


 まあ確かに、十人を超える大所帯では、合理的といえば合理的かも知れないが。


 上着は、治奈たち第三中と同様、個々好きずきに選んでいるようであるが、靴とスカートの色が、三年生は水色で、二年生は赤、一年生は白、と統一されている。

 これが、学校での上履きと同じ色なのだとのこと。


「まあ別にいいけどさ。でも、合理的はまあそうだろうけど、どこがおしゃれだと思ってんのかね」

「ほじゃけど、自信持っていわれると、つい納得してしまうのう」


 などと、カズミと治奈が、こそこそぼそぼそ話していると、その隣で、


「はああああああっ、よかったあああああああ」


 アサキが、口から安堵の蒸気を、ぷしゅうーーーーっと吐き出しながら、身体をくにゃくにゃと左右に揺らしている。


「なにがだよ。変な踊りして、妙な声を出しやがって。ピンセットで鼻毛抜くぞ」

「いやあ、これまでヴァイスタと戦ってきたのって、もしかしたら全部ウソのドッキリで、誰かに担がれているだけなのかなあとか思ってたからあ。第二中の人たちと、異空に入ったり変身したりして、安心したあ」


 もちろんヴァイスタのいない世界なら喜ばしいが、それはそれとして置いといて。


「お前さあ、こないだはドッキリでザーヴェラーに殺され掛けたのかよ。つうか、以前にもまったくおんなじこといってなかったかあ?」

「だってえ、他の子が変身したり、一緒に異空に入ったりとかは初めてだからあ」

「令堂のボケは、スケールがでかすぎて、どう突っ込んでええのか分からへんわ」


 みちおうが、力のない笑顔で、アサキの脇腹を肘で軽く突いた。


 と、そんな応芽へと、


「あ、ちょっとそこのキミ」


 第二中魔法使いのリーダーである万延子が、呼び止め、前に立った。

 シフォンショートの髪の毛を掻き上げながら、笑顔を向けた。


「えっと、みちさん、だっけ? じゃあ、じゃあ、ミッチーって呼んでもいいかな?」

「嫌や」


 応芽、即答である。


「うーん」


 万延子は、唐突に真顔になって、腕を組んでなにやら考え込みはじめた。別のあだ名を考えているのか、それとも他のなんなのか。


「な、なんや?」


 そんな態度を不気味に感じたか、応芽は、訝しげな表情を浮かべつつ、一歩引いた。


 が、万延子は、その分だけ一歩詰めると、不意にしゃがんだ。


「ふむ。やっぱりここがおしゃれじゃないなあ。……切っちゃえ」


 名案、とばかりの顔で、腰のナイフを手に取ると、応芽の太ももへと近付けて、魔道着の黒タイツを切ろうと摘んで引っ張った。


「なにすんやあ自分!」


 怒鳴った。

 かなり激しく。


「あ、ダメ? いやあ、ミッチーが、もっとかわいくなるかなって思ってえ」


 はははっ、とまったく悪気のない笑顔だ。


「そもそも、いまのその露出のない格好じゃ、ムサ苦しくて、むしろ素っ裸でいるよりも、恥ずかしいと思わない?」

「おのれの異様な価値感だけやろ! あたしは、小学生の頃から訓練受けて、見習い生ながらも変身しとるんや! お前らタコどもとは、年季が違うんや! 初めてン時から、もう何年も、ずーーっとこの格好なんや! 誇り持っとるんや! 覚えとけ! つうかミッチーって呼ぶな!」


 ミッチーは、顔を真っ赤にして怒鳴った。

 あまり激しくまくしたてたので、すっかり息を切らせて、肩を大きく上下させている。


「ほら、慶賀さんうるさいよ! 輪になってって、さっきからいってるでしょ!」


 須黒先生が、イラついた声で手を叩いた。


「何故あたしだけ怒られる……」


 タイツ切られそうになったり、ミッチーと呼ばれたり、全裸の方がマシとかセンスをバカにされたり、好き勝手されているのこっちなのに。と、納得いかない表情で、握った拳をぷるぷる震わせている応芽。

 はあ、と短くも大きなため息を吐くと、ふらふら歩いて、指示通り輪に加わった。


 第二中と第三中、魔法使い全員で一重ぐるりの、大きな輪である。

 準備運動の前段階として、立ったままの瞑想を行うのだ。


「はい、ゆうーっくりと吸ってえーーーーえ……吐くーーーーーっ」


 須黒先生の声に従って、魔法使いたちは目を閉じ、お腹に手を当て、息を吸って、息を吐く。


「しっかり気を練って、体内中をゆっくり循環させる。循環させながら、少しずつ気を練り上げる。イメージはそれぞれ頭の中に思い浮かべていいけど、この基本は守ること。集中してね集中」


 いわれずとも、顔を見ればみなしっかり集中出来ているようだ。

 一人を除いては。


 ボガン!

 これは、カズミが治奈の背後に回り込んで、カンチョーしようとして、先生にゲンコツ食らった音である。


 その音に誰も気付かないくらい、みな集中している。

 殴られた当人以外は。


「つーっ、いてえ……」

「昭刃さん、いい加減にしないと、そろそろ本気で殴るからね」

「えーっ。充分に本気で殴ってたと思いますう」

「え、なあに? わたしの本気を見たいって?」

「ほ、本気で殴られてましたあ! もうしません!」

「ったくもう。……はい、じゃあ次! ペアになって、気弾ラリーを往復二十回。コントロール重視でね。受ける相手が動いちゃったら、ゼロからやり直し。第三中の六人は、必ず第二中の子と組んで。では、始めてくださいっ!」


 魔法使いたちは、いわれた通りにペアを作り、体育館の床に引かれた球技用の青ラインを挟んで、分かれる。


 ペアの片方が、両手の間に練った気を溜めると、薄青い球状のエネルギー体が生じて、頭上に浮かぶ。

 みな次々と、バレーボールのスパイクのように叩いて、相方へ向けて飛ばした。


 バジ、

 バジッ、

 と、いたるところで、プラズマ弾ける放電と青い気弾とが飛び交う。


「いっくよお!」


 という声と共に、それはアサキにも飛んできた。

 飛んできたのは分かったけれど、突然のことに、なにをどうしていいのか分からず、


「わ、わっ」


 焦り慌てているうちに、


 じゅあっ ぷちぷちっ


「あっつーーーーーーっ!」


 気弾が頭に直撃して、髪の毛の焦げる匂いが立ち上った。


「うわっ、ごめんねえ令堂さん、大丈夫う?」


 サブリーダーの、ぶんぜんひさが、真顔だけど、どこかのんびりした口調で謝った。


「あ、だ、大丈夫です。ちょっと熱かっただけで。すみません」

「いえ、こっちもいきなりで、ほんとごめんねえ。噂に聞いてた自慢のアホ毛が、焦げてなくなっちゃったねえ」

「あの、自慢したいわけじゃなくて、どうしてもピンと跳ねてしまうだけなんですがあ」


 触ってみると確かに、みんなからアホ毛と呼ばれている、頭頂から伸びているピーンと跳ねた毛がなくなっている。


「おーっ、アホ毛がなくなって怪我の功名じゃん」


 隣で見ていたカズミが、面白そうにからかった。


「いやあ」


 からかわれていると知りつつも、まあいいや、と笑顔でなおも、アホ毛のあったあたりをなでていると、


 ぴんっ、


 毛が起き上がって、新たなアホ毛が生じていた。


 結局出来ちゃうのかあ、とがっくり項垂れるアサキを、カズミがわははは指さして大笑いだ。


「酷いよお、カズミちゃん。……でも、魔法の応用で、こんなことも出来るんだね」

「アホ毛の処理のことか?」

「違うよ! 気弾のことだよ」


 なんで魔法で髪の毛を切らなきゃいけないんだ。


「気弾? 応用技術に違いないけど、初歩の初歩だろ。初歩すぎるから、あたしたちだけの時は、基本やらねえ練習なんだけどな」

「えーーっ! 初歩すぎるって……ビーム兵器みたいなものでしょお。なんとかレーザー砲、みたいな。これを鍛えて、みんなで離れたところからヴァイスタを攻撃すればいいんじゃないのお?」

「無理だよ」

「どうして?」


 拳より剣、剣より鉄砲、鉄砲よりミサイルではないのか?


 と、素朴な疑問符を顔にぺたぺた貼り付けていると、今度は文前久子から、答えが返った。


「あのねえ、令堂さん、気弾じゃ弱すぎるから、ヴァイスタは倒せないんだよ」

「そうなんですか?」


 わたしの髪の毛は、一瞬にして焦げてなくなりましたけど。


「破壊が出来ても、すぐに回復されちゃうし、そもそも気弾に、破壊の魔法力は、ほとんど込めることが出来ない。込めても、到達までに減衰するし。だから結局、接近して、破壊の魔力を帯びた武器で、直接ダメージを与えないとならないんだ」

「そうか。都合よくはいかないんだなあ」

「うん。気を操ったり、魔力の狙いを定めるトレーニングとしては最適だけどねえ」

「あれ、でもこないだザーヴェラーと戦った時、気弾みたいのバカバカ撃たれましたけど。あれ、一発一発がすっごい威力でしたよ」


 まだ、あの時の迫力、恐怖は忘れていない。


せんかいのことだね」

「マセンカイ?」

「魔法使いの気弾と、理屈はまったく同じらしいけど。でも向こうは邪念怨念の塊だから、生み出す破壊エネルギーが半端じゃないんだな」

「はあ」

「それでも、そのまま撃てばあっという間に減衰しちゃうんだけど、あれは自分の身体の一部をちぎって、破壊エネルギーの膜で被って飛ばしているんだよ。だから減衰がない。わたしたちには無理でしょ? 身体をちぎって飛ばすなんて。そこが、あいつらとわたしたちの違い」

「確かに、無理ですね」


 でも、工夫でなんとか出来ないものかな。

 魔閃塊とかいう、あんな凄い攻撃を、魔法使いが放つための方法、技術が。

 わたしの非詠唱能力で、なにか出来ないだろうか。


 まあいいや。

 それは後。

 いまはコツコツ、実力を積み上げないと。


「じゃあ今度は令堂さんから、やってみる?」

「はい!」


 アサキは力強く、ぎゅっと拳を握った。


 そうだ。応用云々などは、後の話だ。

 まずは、カズミちゃんのいってた初歩の初歩程度は、簡単にこなせないことには、非詠唱もなにもないのだから。


 アサキは、なにかを大切に包み込むような手付きで、両手を胸の高さにまで上げ、念じると、先ほど瞑想した時の要領で、体内で魔力を回した。

 意識を、手のひらに集中させると、手と手の間に、ぼーっと薄青い光の球が浮かび上がった。


「初めてだけど、ここまでは、よし、と。後は、これを、こうして、と……」


 せっかく作った初めての気弾を、消してしまうことがないように、丁寧にゆっくりと、身体を後ろへと軽く捻って、


「えいっ!」


 前を向きながら、素早く両手を突き出した。


 そうして打ち出された、記念すべき初気弾……は、ロケット花火みたいにうねりうねり不安定な軌道で、明後日の方向に飛んでいき、


 どおおん

 体育館壇上の、上の壁に大穴を空けてしまったのであった。


 ひゅう・っ

 風が吹いていないのに吹いている。

 自分のしでかしたことに、目が点になっているアサキの、胸の中に。


「よ、よ、弱いとかいってえ、凄い破壊力じゃん!」

「だからあ、魔法的な力は弱いから、ヴァイスタには通じねえんだよ! アホかっ、なに壁を破壊してんだよ。まあこっち異空側だから、壊しても現界位相で勝手に戻るとは思うけどさあ」


 それはそれ、これはこれ、アサキの不器用さに呆れ顔のカズミである。


「ドンマイドンマイ、カズミちゃん! 初めてにしちゃあ上等! みんな失敗して強くなるんだあ! カズミちゃんファイトお!」


 横で見ていた、第二中のひろなかみなが、アサキへと向かって励ましの言葉を投げた。名前間違ってるが。


「カズミはあたし! こいつはアサキだ!」


 ぽかっ。

 叫びつつ、カズミはアサキの頭にゲンコツを落とした。


「いたっ! なんでわたしを殴るのお!」

「そこにお前の頭があるからだ」

「理不尽だ!」


 でもまあ、

 失敗したわたしが悪いのだから仕方ない。

 こういう練習があるのなら、最初から教えておいて欲しかったけど。


 しかし、見事に失敗してしまったな。

 初歩の初歩をしっかりやらないと非詠唱もなにもない、などとかっこつけたこといっといて、初歩の初歩すらまともに出来ないんだから。自分の不器用さが嫌になるよ。


 でも、気弾って、なんか楽しいな。

 両手の中に、しゅるるる、って静電気みたいな、さわさわしたのが出来るのも気持ちよかった。

 今度、一人で練習してみよっと。

 でもとりあえず、ここでもう一回だ。そうだよ、わたしが失敗したままじゃ、文前さんの練習にもならないものな。


「というわけで、今度こそお!」


 と、また手を胸の前に持っていったところで、


「はい、じゃあ一人ずつズレて相手を変えて!」


 須黒先生の指示の声が飛んだ。


「ああ、全然やれなかったあ。すみません、文前さん。わたしがグズで、迷惑掛けちゃった」

「いいよ気にしないで」


 文前久子、手のひらひらひら。


 いわれた通りに一人ずれ、次のアサキの相手は、先ほどドンマイドンマイいってくれた、二年生のひろなかみなである。


「よろしくお願いします弘中さん!」

「よろしくう。よし、いくぞおアサキちゃん! いち、にいの、それっ!」


 弘中化皆が、作った気弾を投げた。


「はい!」


 アサキは、右腕に持ったテニスのラケットを振るイメージで、打ち返していた。


 打ち返すと同時に、思っていた。

 なんて返しやすいんだろう、と。


 隣でさっきのを見て、わたしが初心者なことを分かって、それで加減してくれているのかな。

 優しいんだな。第二中の人たちは。

 カズミちゃんはやたら嫌っているけど。

 まあ、カズミちゃんの男の子みたいな性格を考えたら無理もないのかな。

 ふふ、


 胸の中で笑いながら、気付けば気弾を正確に打ち返し打ち返し、しっかりとしたラリーになっていた。


 今度はアサキが気弾を作り放つが、少しコントロールが乱れたのを弘中化皆はしっかり受け止め返してくれた。


 見ていた須黒先生が、


「いい感じだわね、令堂さん」


 笑みを浮かべ褒めるが、ラリーに夢中になっているアサキの耳にはまったく届いていないようである。



 さて、少しカメラを移動させて。

 アサキから何列か離れた場所では、よろずのぶと明木治奈が気弾を飛ばしあっている。

 お互いしばらく無言であったが、やがて万延子が退屈そうな顔でおもむろに口を開いた。


「ねえハルビン、あのさあ」

「なあに? あ、いや、誰のことじゃハルビンって!」

「じゃあ、ハルナさん。ハルナちゃん。違うな、アキラギちゃん。アキビンちゃん。よし、これで。アキビンちゃん、ほんとにあの子、一人でザーヴェラーを倒したの?」


 気弾ラリーの中、万延子はちらりアサキへと視線を向ける。


 誰かアキビンじゃ、とでもいいたげに顔をしかめる治奈であるが、キリがないと思ったか突っ込まず。


「信じ難いじゃろ? でも本当じゃけえね」


 言葉とともに、気弾を返した。


「ふーん。非詠唱能力を持ってるってのも?」

「本当じゃ」


 バジッ、バジッ、と放電しているような音と共に、言葉と気弾がいったりきたり。


「ビビリってのもお?」

「合宿で怪談やって大泣きしとったわ」

「ギャグが古いってのもお? アジャパーとか、お呼びでないとかハラヒロハレとか」

「本当。というかなんで知っとる」


 狭い活動範囲だから、範囲内で武勇伝が知れ渡るのなら分かるが、ハラヒロハレとか記憶にございませんとかガチョーンとか、一体誰がわざわざ噂するんだ。


「服のセンスはいい方?」

「どうじゃろね。義理のお母さんが選んだのを着とるらしいけど、まあ普通かのう」

「なーんだ。うちにスカウトしようと狙ってたんだけど、オシャレじゃないんならいいやあ」

「なんのスカウトじゃ!」


 思わず声を荒らげてしまう治奈。

 振り返ってみて身のまるでない会話を、たっぷりとしてしまったことに、とてつもない脱力感、肩がっくり。


「伊達と酔狂で魔法使いやっとるという噂はほんとじゃった」


 ぶつぶつ呟く治奈であった。

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